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TILE TREND COLUMN #33

時を超えた美学の起点

パッラーディオ建築とタイルに宿る普遍的な美意識

タイルを選ぶとき、私たちはその素材感や色合いだけでなく、空間における総合的な調和にも目を向けます。もし、わたしたちが時代を超えて愛される普遍的な美しさを求めるなら、ルネサンス期の巨匠アンドレア・パッラーディオ(1508-1580)の建築思想に触れることで、大きな発見と喜びを得られるでしょう。その建築は、美しさと機能性が見事に融合し、今なお世界中の建築家やデザイナーたちのインスピレーションの起点となっています。
アンドレア・パッラーディオは、石工として職人の道を歩み始めましたが、人文主義者ジャン・ジョルジョ・トリッシーノとの出会いをきっかけに、古代ローマ建築への探求を深めていきました。特に建築家ウィトルウィウスの『建築十書』に感銘を受け、古代建築に見られる均整の取れたプロポーションや合理的な空間構成、そして美しさと機能が両立する構造に魅了されました。この古代への敬意とルネサンスの思想が融合することで、パッラーディオ特有の建築スタイルが形成され、彼自身の創造性の「起点」となったのです。


サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂(San Giorgio Maggiore) 出典: Misha2101, CC BY-SA 4.0 , Wikimedia Commons

サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂の外観

サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂 床の大理石

彼の建築は、数学的な比率に基づいた均整のとれたファサードや、シンメトリーを重視した空間が特徴的です。なかでも世界遺産のヴィラ・ラ・ロトンダは、中央にドームを配し、四方に同じデザインの柱廊(ポルティコ)を展開させることで、どの方向から見ても調和の取れた美しさを感じさせます。これらの建物は単なる住居にとどまらず、自然と人間、機能と装飾が調和する空間を目指した、彼の理想の建築といえるでしょう。


世界遺産 ヴィラ・ラ・ロトンダ(Villa La Rotonda)|ルネサンス期のヴィラで、北イタリアのヴィチェンツァ郊外にある

このようなパッラーディオの建築思想は、現代のタイルデザインにも大きな影響を与えています。彼が重視した、シンメトリーや比例といった構成原理は、タイルの配置やパターンデザインに応用され、空間に安定感と美しさをもたらします。また、自然素材の質感や色合いの調和への深い洞察も、現代のタイルデザインに活かされています。落ち着いたトーンの天然石調タイルや、土や陶器の温かみを感じさせるテラコッタなどは、現代でも好まれ、空間に安らぎと深みを与えてくれます。さらに、重要なのは、パッラーディオの「美と機能の融合」という理念です。現代のタイルもまた、見た目の美しさだけでなく、耐久性や手入れのしやすさといった実用性を兼ね備えています。これはまさに、彼が目指した建築の本質と見事に重なり合うのです。
私たちの暮らしを彩る一枚のタイル──その中には、パッラーディオのような建築家たちが築き上げた、時代を超える美意識が宿っています。タイルを選ぶとき、色や質感だけでなく、そのデザインがどこから始まり、何を伝えようとしているのか、その「美しさの起点」にも思いを巡らせてみてください。そうすれば、空間は単なる場所ではなく、歴史や思想が静かに息づく創造的な空間へと変わっていくはずです。


アンドレア・パッラーディオ(1508-1580)

レデントーレ教会(IL REDENTORE)

アンドレア・パッラーディオ
ルネサンス後期のイタリアを代表する建築家。石工として出発し、人文主義者の支援を受けて古代ローマ建築を深く研究、その原理を再興させました。ヴィラ・ラ・ロトンダをはじめとする傑作を残し、後に「パッラーディアニズム」と呼ばれる建築様式を確立、美と機能を融合させた建築思想は現代まで影響を与え続けています。

陰影のディテールが空間を形づくる──「パルティコラーレ」

普遍的な美を求めた建築家パッラーディオが用いた構図操作──反復、対称、回転。その思想を壁面で端的に表現するのが「パルティコラーレ」です。124.5mm角のタイルに、Plain・Line・Curveの3種の立体フォルムを組み合わせ、スモーキーな色彩で展開。直線と曲線から生まれる陰影のリズムは、壁面をディテールからデザインし、クラシックなスタイルにもコンテンポラリーなスタイルにも調和します。新商品「パルティコラーレ/PARTICOLARE(=ディテール / イタリア語)」は、その名の通り、細部が全体の美を形づくることを具現化したタイルです。
           

パルティコラーレ / Particolare NEW


海外施工例 TRT-G1610・G1620・G1720

海外施工例 TRT-G1540・G1640・G1740

海外施工例 TRT-G1710
TRT-G1510
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TRT-G1520
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TRT-G1530
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TRT-G1680
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TRT-G1780
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海外施工例 TRT-G1620・G1680

アンドレア・パッラーディオの建築とタイルに息づく調和の精神。その普遍的な美意識が、現代のインテリアや建築デザインの中で新しい可能性を広げていきます。「普遍的な美意識」という概念は、空気を包み込むような曲面仕上げのタイルを開発するプロジェクトの中でも、重要なテーマとなっています。やわらかさや奥行きを創出する新たな美的表現は、現代の空間に新しい可能性を与えてくれるものです。パッラーディオが追求した「普遍的な美意識」は、このように現代の技術と融合し、新しい形で私たちの生活空間に豊かさを提供します。
 

今なぜ曲面が求められるのでしょうか?

近年、インテリアや建築の分野で世界的に注目を集めているのが、コーナーやエッジを「曲線」や「曲面」、すなわち丸みを帯びた形状で仕上げるデザイントレンドです。かつては直線的でシャープなイメージのデザインが主流でしたが、人々の価値観や美意識の多様化、「心地よさ」や「やわらかさ」への希求の高まりを背景に、空間を包み込むような曲線や曲面仕上げが再評価されています。コロナ禍以降の、住まいや職場において「安心感」や「リラックス」をより強く求める社会的背景も影響しています。曲線や曲面は視覚的にも心理的にもやわらかさがあり、心理学研究では、円やカーブは尖った形状より「安全」や「親しみやすさ」を連想させてリラックス効果をもたらすことが示唆されています(例:カニッツァの三角形などゲシュタルト心理学)。このため、曲線や曲面仕上げは、親しみやすく人に寄り添う空間デザインの要素として広がりを見せています。また、3Dプリンティングやコンピュータ数値制御加工技術、革新的素材の台頭により、従来実現困難だった複雑な曲面が可能になりつつあり、デザイナーたちは、曲面を「新しさの象徴」や「先進性の表現」として活用することで独自性の追求を図っています。椅子や暖炉、ミラー、照明器具など、家具やインテリアアイテムにも曲線や曲面が積極的に取り入れられ、空間全体にやわらかさと個性を与えています。

曲線や曲面仕上げは一時的なトレンドにとどまらず、テクノロジー・心理・文化の各側面から、現代社会のニーズに応えるデザイン要素といえます。これからも人々の感性や生活様式の変化とともに進化し、「心地よさ」と「革新性」を両立する重要な要素となっていくでしょう。世界の著名な建築家たちが象徴的な空間を創造する中、わたしたちはそこから新しさだけではない普遍の美意識を感じることができます。これはアンドレア・パッラーディオが古代ローマ建築への探求から革新的なデザインを生み出した歴史にも通じています。曲線や曲面を取り入れる試みはまさに、新時代を象徴するデザイン言語です。
 

曲面タイルの革新

現在、名古屋モザイク工業では、建築デザインの自由度をさらに高めるため、曲げることができる特殊な大判タイルの開発を進めています。通常、タイルは約℃の高温で焼成することで硬化し、曲げることは不可能ですが、原料である粘土と鉱物の配合を繰り返し調整する中で、鉱物の比率を高め再加熱時に柔軟性を持たせることに成功しています。これにより前例のない湾曲形状のタイル製造が可能となり、現在は多様な建築やインテリアへの応用を想定した実証実験が進行中です。加工技術の開発や、このような曲面タイルの開発によって、今後の建築のさらなるデザイン性向上や新たな意匠提案への道が開かれつつあります。


生成AIによるイメージ

アンドレア・パッラーディオの建築とタイルに息づく調和の精神と美意識が、現代の空間に新たな息吹を吹き込み、未来の建築とインテリアの可能性を広げていくでしょう。

 
 

2025.9.16