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TILE TREND COLUMN #32

縦リブと薄型タイルの潮流

ミラノから発信された新たな価値観──人間に寄り添うデザイン回帰

2025年4月に開催された世界最大級の家具見本市、ミラノサローネ(Salone del Mobile Milano)は、“Thought for Humans(人間のための思考)”をテーマに掲げ、人の感覚に寄り添うデザインに立ち返りました。「触れる」「歩く」「見上げる」といった日常の動作を心地よくする工夫が会場のあちこちに見られ、縦方向のリズムを活かした表現も目を引きました。表面に浅い溝を刻むフルーテッド(縦リブ)は、光を細やかに受け止め、壁面に柔らかな陰影を作り出します。縦方向のデザインによって視線は自然と上に導かれ、天井が少し高く感じられる──そんな“小さな良い変化”が、空間全体の印象を変えてくれます。ミラノサローネの会場を歩くと、この縦のリズムが壁面だけでなく、家具や住宅設備のディテール、照明の造形、扉などあらゆる箇所に取り入れられていることに気づかされます。このフルーテッド(縦リブ)は、人間の身体感覚に基づく自然な回帰といえるでしょう。

この“縦の意匠”は、私たちが昔から日本の暮らしの中で親しんできたものでもあります。格子戸や簾、木のルーバーなど、縦の線が美しく並ぶだけで空間が引き締まり、静寂が生まれます。海外で注目されるジャパンディスタイルに、この縦の意匠が自然に溶け込むのも納得できます。これをタイルで表現すれば、縦の直線が集まって面全体の表情を整え、陰影が豊かな質感と奥行きを演出します。
興味深いのは、この縦のリズムが持つ文化的な奥深さです。西洋建築を振り返ると、ゴシック大聖堂の天に向かって伸びる柱や、アール・デコの摩天楼が示すように、縦線は「威厳」や「進歩」の象徴として使われてきました。一方、日本建築の縦の意匠は「透過性」と「境界の曖昧さ」を大切にし、内と外を優しくつなぐ役割を果たしてきました。格子越しに漏れる光、簾を通して感じる風──それらは完全に遮るのでも、完全に開くのでもない、その間にある豊かな中間領域を私たちに与えてくれます。
 

国立西洋美術館に学ぶ、素材と光

この感覚をより深く理解できるのが、東京・上野の国立西洋美術館(本館)です。細いコンクリートの円柱群が支えるピロティの上に箱型の建物が載った特徴的な外観で、特に注目すべきは外壁を構成する縦長のプレキャストコンクリートパネル(PC板)です。このパネルには緑がかった玉石が敷き詰められ、コンクリートで固められています。朝の光では玉石の質感が際立ち、夕方の斜光では各パネルの境界線が明確な縦のラインとして浮かび上がります。近づけばざらりとした手触り、離れれば面としての落ち着きがあり、見る距離や角度、太陽光の加減によってさまざまな表情を見せ、素材と光の相互作用がいかに豊かな体験を生むかを実感できます。また、これらのパネルは、ル・コルビュジエが人体の寸法と黄金比をもとに考案した尺度「モデュロール」に基づいて配置されており、建物全体に美しいプロポーションとリズム感を与えています。


国立西洋美術館(世界文化遺産) / Kakidai, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

国立西洋美術館(世界文化遺産) / Kakidai, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

20世紀を代表するフランスの建築家のひとり、ル・コルビュジエが1959年3月に完成させたこの建築は、「無限成長美術館」という革新的なコンセプトで設計されました。らせん状に展開する展示空間は、美術館が成長し続けることを前提としており、建築そのものが生きているような有機性を備えています。しかし、それ以上に印象的なのは、コルビュジエが光と影、素材の経年変化まで設計に組み込んだことでしょう。雨だれの跡が描く縦の線、苔の生える壁面の湿り気、時を経て生まれるコンクリートの味わい──これらすべてが建築の「成熟」として受け入れられるよう、素材選びや設計が、とても丁寧に行われています。
タイルの設計にも同じことがいえます。平らな面にほんの少しの起伏を加えるだけで、光は細やかに弾かれ、その壁は単調な面から、活き活きとした表情に変貌します。縦方向の溝がもたらすのは、見た目の意匠だけではありません。目線の流れや空間の心地よさ──そうした感覚的な体験すべてを左右するでしょう。

タイルで表現する縦のリズム―「キスト」

2025年の新商品「キスト」は、この“面の設計”をシンプルな形で実現できるシリーズです。

キスト / Kist NEW

「キスト」は約445×46.5mmという大型サイズで、縦横比およそ9.5:1のスレンダーな形状が新鮮な印象を与えるシリーズです。従来の正方形タイルでは表現できない、力強い縦のリズムを空間に生み出します。エクスポーズドブリック(むき出しのレンガ)からインスピレーションを得たデザインで、ヴィンテージ感あふれるスモーキーな色調がブルックリンスタイルやインダストリアルスタイルの空間づくりに最適です。ブライトとマットの展開で、カウンター背面のように光がよく当たる場所にはブライトでさりげない艶を、ベッドヘッドやニッチのように落ち着いた雰囲気にしたい面にはマットで陰影の柔らかさを演出できます。アクセントウォールとして使用すれば、空間に印象的な縦のリブラインが生まれ、天井を高く見せる効果とともに、上昇感と開放感をもたらします。


海外施工例 FBC-F0720

海外施工例 FBC-F0830

海外施工例 FBC-F0810
FBC-F0710
FBC-F0720
FBC-F0730
FBC-F0740
FBC-F0750
FBC-F0760
FBC-F0810
FBC-F0820
FBC-F0830
FBC-F0840
FBC-F0850
FBC-F0860

キストの詳細はこちら
 
 

タイルの薄型・軽量化

2025年の重要なキーワードは「サステナビリティ」です。これは単なる環境配慮のトレンドではなく、建材選択の根本的な価値観の転換を意味します。見た目の美しさだけでなく、ライフサイクル全体で環境負荷を抑えることが、タイル選びの新しい基準になりつつあります。キストと共に注目すべき新商品「ソッティレッツァ」は、このサステナビリティを具現化したシリーズです。サステナビリティのためのテクノロジーを追求し、薄型・軽量を実現した環境配慮型のタイルとして開発されました。1200×600mmと600×300mmの使いやすいサイズでありながら、6mmという薄さを実現した「ソッティレッツァ(イタリア語で薄さ・繊細さの意味)」は、環境負荷を大幅に軽減しています。薄型・軽量化がもたらすメリットは、運搬時のCO2削減だけではありません。同じトラックで運べる枚数が増えれば物流効率が向上し、建物の躯体への荷重が軽くなれば構造の自由度も増します。まさに次世代に向けた画期的なシリーズといえるでしょう。
 

ソッティレッツァ / Sottilezza NEW

マットで落ち着いたセメントテイストのテクスチュアとカラーが、クールになりすぎないミニマルな美しさを表現しています。ウォームグレーは住空間に自然に溶け込み、クールグレーは商業空間に品格を与え、グレージュは自然素材との調和を生み出します。


海外施工例 ERM-AC7830

海外施工例
床:カラ-7810(600角 受注輸入形状) 壁:ERM-U7810

海外施工例
床:カラー7840(600角 受注輸入形状) 壁:ERM-U7840
7810
7820
7830
7840

デザインの本質は、技術の進歩とともに人間性を見失うことではなく、むしろ人間らしさを取り戻すことにあるのかもしれません。ミラノから発信された“Thought for Humans(人間のための思考)”は、私たちの暮らしに静かな変革をもたらしています。素材の選択一つ一つが環境への配慮となり、これからの空間づくりの新しい出発点となっていくでしょう。

 
 

2025.9.4