タイルの名古屋モザイク工業株式会社

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TILE TREND COLUMN #6

デジタル技術による窯変調のタイル

ゼリージュタイルを再現した「エスマルタード」
壁:APC-G1030・G1050・G1051-M 床:APC-Z2030・Z2050

最新トレンドの1つに、高度な手仕事やヴィンテージの魅力をデジタル技術で再現しようとする試みがあります。現代の進化した焼成技術により、セラミックタイルは、短時間で大量の製品を作り出すことが可能になりました。その代償として、炎(ほのお)が生み出す偶然の色むら(窯変/kiln change)や、季節や湿度で微妙に変化する焼き物ならではの質感や風合いを出すことが難しくなりました。

 

シャルトキルン:台車にタイルを一つひとつ手で積み、炉内に入れて焼成。焼成後に引き出すので手間がかかる。炎が生み出す偶然の色むら(窯変)や、季節や湿度で微妙に変化する焼き物ならではの質感や風合いがあった。

ローラーハースキルン:炉内の製品をローラーに乗せて搬送して焼成。大量生産向き。現代の国内外生産設備の主流。短時間で均一な焼成が可能となった。一方で、焼き物ならではの風合いの表現が難しくなった。

昔の焼成窯は、火の温度や火の巡りを完全には制御できず、また炉内に置く位置によっても焼きむらと色幅がでました。それらが工業製品としては不完全と見なされる反面、二度とない特別な色調として独自の味わいとなり高い評価を受けることもありました。セラミックタイルは、焼成してみなければわからない、いわば出たとこ勝負の製品という側面があったのです。陶芸作家が登り窯で焼成する一点ものの陶器は今でも、そこに大きな価値を見出しています。
 
タイルの焼成設備の進化により、近年では、反対に大きくランダムな色幅を出すことが難しくなりました。しばらくは、それを「工業製品として良い。」とする考え方が主流でしたが、コストと効率を追求して、均一化されたタイルばかりになってくると、だんだん昔の風合いが懐かしくなってきます。生活のトレンドも、人工物に囲まれた生活から自然なものへの回帰へと移り変わり、人々の心を癒すような空間が求められるようになりました。
但し、シャトルキルンのような古い生産設備のほとんどは廃棄されてしまったので、国内でも海外でも簡単に再現することができなくなりました。そこで、昔の焼成窯の不規則性を最新のデジタル技術で再現しようとする試みが出てきました。単に絵柄や模様の復刻というだけではなく、焼成による焼きむらや色幅までもデジタルで再現する試みです。
 
  

デジタル装飾の種類

最新のタイルにおけるデジタル装飾には、大きく分けて2種類の技術があります。
一つはデジタル・インク(釉薬)を噴射して絵柄を描いていくウエットデコレーションです。数十cmの上方からスプレー式に噴射する方法ではなく、デジタル制御でタイルの表面全体に釉薬を吹き付けるので、至近距離から0.1mm前後の誤差で、正確に無駄なく印刷できます。元となる画像の解像度は、製本印刷レベルの400dpiまで進化しました。プリンターヘッドのクリーニングや釉薬の循環によるロスも最小限にコントロールできるので、効率的でエコだとも言われています。一般的にDHD(Digital High Definition)と呼ばれ、最新のプリンターでは、12種のインクで 600~720dpiの解像度を持つ機器も出てきています。

デジタル・インクジェットプリンター:DHD(Digital High Defintion)と8色のインク。

デジタルで色、柄、素材感をトータルにコントロール。

もう一つのデジタル装飾は、微細なパウダー状の粘土を画像解析通りに敷き並べて模様にする設備です。液体ではないので、デジタル・ドライ・デコレーション(Digital Dry Decoration)と呼びます。
デジタル・ドライ・デコレーションの出現により、表面の緻密な表現だけでなく、素地ベースも奥行きのある立体的な表現が出来るようになり、より複雑で、自然をそのまま写したような表現が可能になりました。ウエットとドライという二つの装飾技術を使い分け、あるいは合わせて使うことで表現の幅が飛躍的に広がっています。(デジタル・ドライ・デコレーションは、比較的大型のタイルに使われています。)

デジタル・ドライ・デコレーション:微細なパウダー状の粘土を、描くようにして配置して焼成する。(SACMI社資料)

このような背景があって、品質が不安定なために現代建築では使いにくかったマジョリカタイルやゼリージュタイルなどを再現した製品が出現しました。
 
 

マジョリカ焼きとタイル

イタリアでは、中世以降、豊富な赤土を使った素焼きのテラコッタや、マジョリカ焼きを作る伝統が各地で根付いてきました。「マジョリカ」は、15世紀末、イタリアのフィレンツェを中心に生まれました。その後ファエンツァやカステルデュランテなど各地で作られ、イタリア陶器の代名詞になりました。素地は耐火度が低い茶褐色で、乳白色釉(錫乳白釉)を掛けて、その上に鮮やかな絵画的絵付をしました。当時発見されていた西欧の粘土は火に弱く、そのため低火度の華麗な色絵陶器(錫エナメル釉陶器)が発達しました。

マジョリカの華麗な絵付け/16世紀(モデナ市民博物館)

マジョリカタイル:六角形と約200mm角「楽園追放」のアダムとイブ(モデナ市民博物館)

近代的なセラミックタイルとしては、1930年代からマジョリカと同じように、二度焼成法(ダブル・ファイヤード)と呼ばれる製法で生産され、二度の窯焼きをする必要がありました。一度目は成形して乾燥させたものを窯入れし、素焼きの陶器(ビスコットと呼ばれる)をつくる工程。二度目は素焼きに上薬をかけたものを焼く工程です。技術革新として最初の大きな飛躍は、1970年代後半にモデナ郊外のサッスオーロのメーカーが、新技術の一度焼成法(シングル・ファイヤード)を開発したことで、成形して乾燥させたものに釉薬をかけて一度の窯入れを行えばよくなりました。二度焼成法では24時間かかったものが、一度焼成法では1時間程度と、大幅な時間短縮が可能となり、燃料と生産時間、労働力の節約は、画期的な技術革新となりました。1980年代には全体の25%、1990年代には60%がこの方式で生産されるようになりました。
 
 

クロジョーロ/マジョリカタイルの再現

クロジョーロ MRZ-F7030(Blue)

「クロジョーロ」は、マジョリカの光沢と色彩の再現を、低火度の陶器質ではなく、物性の優れた磁器質で実現したタイルです。「クロジョーロ」とは「るつぼ(坩堝)」を意味します。釉薬等を作るときに鉱物などを溶かすための鉢状の耐熱容器のことで、イタリア・エミリアロマーニャ地方モデナ市近郊のサッスオーロにあるタイルメーカーの研究および実験センターの名称として使われています。1980年代に、アーティスト、建築家、陶芸家、デザイナーが集められて、色や素材の効果の研究など、セラミック素材の新しく創造的な実験を行った施設でした。「クロジョーロ」は、絶え間ない研究と技術革新の代名詞でもあります。


MRZ-F7020(Green)

MRZ-F7030(Blue)

MRZ-F7050(Black)

過去に制作したタイルのアイディアや印象を取り入れ、手作業で作られたタイルの風合いをデジタル技術で再現した「クロジョーロ」は、熟練した職人技の伝統と工業技術を融合させて、人間の「感覚」と「技巧」への回帰を提案するものです。丁寧にグラデーションされたカラーは、40種類から70種類の色幅が表現されており、さらに、光の反射で常に変化するエナメル釉を表現するために透明の釉薬を厚く掛けているので、強い色合いと緻密な釉薬の光沢が印象的です。デジタルが作り出した窯変技術により、華やかさを持ちつつ、オーセンティックで落ち着いたその仕上がりが、マジョリカタイルの歴史を思い起こさせます。


MRZ-F7000(White)

MRZ-F7000(White)・F7050(Black)

MRZ-F7020(Green)

MRZ-F7040(Greige)

エスマルタード/ゼリージュタイルの再現

ゼリージュタイルを再現した「エスマルタード」 APC-G1030

「エスマルタード」はゼリージュタイルをデジタル技術で再現したタイルです。イスラム圏の北アフリカを起源とするゼリージュタイルは、スペインでグラナダのアルハンブラ宮殿等を飾る陶器質のタイルとして発展しました。現代でもモロッコなどで生産され、欧米ではエキゾチックなハンドメイドのタイルとして人気があります。
 
ゼリージュタイルは、鮮やかで奥行きのある色彩と、火の廻り具合で自然にできる激しい色むらがあり、釉薬のツヤが光の反射で微妙に変化して見えるのが特徴です。伝統的な手作業で成形し、登り窯や穴窯を使い800℃程度の温度で焼成するので、高温焼成(1200℃超)のタイルより、材質が柔らかく、表面に不純物が混じることもあります。形状もプレス成形のタイルと比較すると著しく不規則ですが、それが魅力となり現代の製法では絶対に再現できない、工芸品のような味わいを持ちます。本来は、イスラム圏の建築における典型的なアート装飾の素材として、熟練の職人が芸術ともいえる技法で割って様々な柄を生み出すものですが、欧米向けに、小さな正方形タイプもあります。

アルハンブラ宮殿のゼリージュタイル。

ゼリージュタイルを焼く登り窯とタイルの窯入れ風景。

ゼリージュタイル:グリーンでも絶妙な色がたくさんあるが、同じ色の再現は難しい。

ゼリージュタイルを再現した「エスマルタード」

デジタル技術を使って、品質管理が難しく材質的にも弱いゼリージュタイルを安定的に使いやすくしたものが「エスマルタード」です。全7色、それぞれ48種類の異なる色幅をもたせることでゼリージュタイルを表現しています。形状は、130mm角と160×140mmの六角形で、各形状に4色の絵柄があります。また、形状により品質が異なり、130mm角はエナメル質のツヤのある質感を出すために焼成温度を低め(1000℃前後)にしているので、陶器質(BⅢ)となり屋内の壁専用です。160×140mmの六角形は、ツヤのない磁器質(BⅠ)で、屋内の床にも使える強度を持ちます。

ゼリージュタイルを再現した「エスマルタード」 壁手前:APC-G1030・G1031-M

青い空と白い壁。地中海気候が育んだゼリージュタイル。

「エスマルタード」は、エナメル質の表面と職人が仕上げたような手作り感を再現するように作られています。さらに、柄のグラフィックスは、経年で絵柄が摩耗した効果やタイルのエッジ部分が微妙に擦れた感じをソフトに表現しています。

「エスマルタード」 壁:APC-G1000・G1020・1060・G1061-M 床:APC-Z2060

Coming soon !

コットキャンティ(来春発売予定 新製品)/レンガの窯変を再現

2021年、新製品として、トスカーナの丘(キャンティの丘)にある歴史的な街並みの美しさを再現したレンガ調タイルが登場します。中世の内外装に使われた多様なレンガの風景をグラフィカルに再現し、磁器質の持つ確かな機能と、経年が生み出す柔らかな風合いという相反する特長をうまく融合させました。このタイルもデジタル技術によってヴィンテージ感を演出するものです。

BOT-L1030 Coccio(ローマ時代からの典型的なレンガ色)

コットキャンティ

250×60角ボーダー(250×60×9.5mm)・200角(200×200×9.5mm)/2形状・全6色 

BOT-L1010 Sabbia(砂色)

BOT-L1020 Tortora(鳩灰色)

BOT-L1030 Coccio(レンガ色)

BOT-L1040 Muschino(苔色)

BOT-L1050 Cenere(灰色)

BOT-L1060 Lavana(黒スレート色)

デジタル技術は、医療や経済活動など広範な分野で、社会の課題を解決する最も強力なツールの一つになりました。アートの分野でも、博物館では、超高細密画像や3Dスキャナー、3Dプリンターを用いて、仏像、茶碗、土器などのレプリカを手触りまでそっくりな再現文化財(素材や技法も忠実に再現した文化財)が制作されており、「さわれる美術鑑賞」が広がっています。映画では、60~70年前の貴重な作品をデジタルで復元・保存する活動等が進んでいます。そして、実用品であるセラミックタイルも、デジタル技術により、色彩だけでなく質感や表面のパターンを多様化させて、空間の質を高める理想的な素材を目指し進化しています。
 
古いものを引き継ぎながら、最新技術を取り入れて、新たなものを創造する。一方で、最新技術を駆使して古いものを大切に修復、保存していく。デジタル技術には、まだまだ私たちの気が付かない多くの可能性が潜んでいることでしょう。
 

2020.12.22