感性がインテリアを動かす時代へ
2025年4月に開催された世界最大級の家具見本市であるミラノサローネ(Salone del Mobile.Milano)では、今年も新たなデザインの潮流が明確に示されました。特に着目すべき点は、家具や照明を単体で展示する従来型のスタイルから脱却し、訪れる人々の感性に訴えかける「没入型」の演出です。家具、照明、ファブリックが織りなす詩情豊かな表現、そして意図的に設けられた余白のある空間設計――それらは人々の感覚を強く刺激し、思わず惹き込まれるような没入感を生み出していました。この新たな潮流が生まれた背景には、私たちが日常の中で感じる「心地よい違和感」や「詩的な余白」といった感性に、ますます価値を見出すようになった時代の変化があります。
ミッドセンチュリーの新解釈「ネオ・ミッドセンチュリー」
ミラノサローネ2025から読み解くトレンドのひとつに、ミッドセンチュリーの新解釈「ネオ・ミッドセンチュリー」があります。ミッドセンチュリーとは20世紀半ばを指し、合理性や機能性を追求した時代ですが、現代ではその再評価と新たな解釈が進んでいます。感性豊かな世界観をいち早く発信した人物が、デザイナーのアレキサンダー・ジラード(Alexander Girard|1907–1993)です。ジラードはミッドセンチュリーの合理的なデザインに、温かな色彩と遊び心に満ちた表現を取り入れ、無機質になりやすいモダンな空間に人間らしい感情と詩情をもたらしました。ジラードが追求したもの、それは「暮らしに寄り添い、心を微笑ませるデザイン」でした。

アレキサンダー・ジラード(1947年撮影)
出典:アメリカ国立公園局(National Park Service)

ミッドセンチュリースタイル例
色彩と遊び心で暮らしを豊かにしたミッドセンチュリーの巨匠
アレキサンダー・ジラードという人物
アレキサンダー・ジラードは、1907年にニューヨークで生まれ、ヨーロッパで教育を受けた後にアメリカを中心に活躍した人物で、テキスタイル、グラフィック、インテリアデザインの分野で多彩な功績を残し、特に1952年から1973年までハーマン・ミラー社のテキスタイル部門を牽引しました。ジラードのデザインは、ミッドセンチュリースタイルが持つ「合理性」や「機能美」に、人間的な感情や色彩、詩的な表現が添えられていることが特徴でした。彼が生み出した数々のパターンは、民族アートや幾何学模様、鮮やかな色彩を用い、無機質になりやすいモダニズムデザインに、温かさや遊び心を吹き込みました。

ハーマン・ミラー社のショールーム(東京)
ジラードの特筆すべきプロジェクトとして、1965年に行ったブラニフ航空におけるCI刷新があります。彼は航空会社の機体デザインから制服、搭乗口、ラウンジ、さらには機内のカトラリーまで総合的なデザインプロジェクトに大きく貢献しました。これは、単なる美しいデザインを超えて、「人がその空間に触れることで、感動的な体験をする」という、現代の「UXデザイン(体験デザイン)」の原点と言われています。ジラードの言葉に “最高のデザインとは、人を微笑ませるものである” という名言があります。これはデザインの本質が、人々の暮らしや感情に深く作用することを示しています。

Miller House|ジラード設計によるインテリアデザイン
撮影:Balthazar Korab氏(アメリカ議会図書館所蔵)
ミラノサローネ2025のトレンドキーワード「ネオ・ミッドセンチュリー」は、単なるミッドセンチュリーの復刻ではなく、現代の素材や色彩、そしてサステナビリティの思想を組み込んで、新たに構築されたスタイルです。その核となるのは、ジラードがかつて追求したような感性や感情への訴求力で、この潮流において重要なのは完璧なシンメトリーや整然とした美しさよりも、色彩や質感によって生まれる「詩情」と言えます。
タイルに受け継がれる思想―「カサカルダ」と「ヴィトラル」
ネオ・ミッドセンチュリースタイルにぴったりなタイルをご紹介します。
カサカルダ / Casa calda NEW
「カサカルダ」はマットで素朴な質感と、やわらかな揺らぎをもつブライト面状の柄が組み合わされたシリーズです。マットとブライトの質感の融合は、近年のインテリアトレンドでもあり、クラシックな魅力と現代的な洗練さを見事に調和させています。ヴィンテージ感のある落ち着いた色合いが、空間を包み込むように穏やかな雰囲気をつくり出し、ジラードが目指した「人の暮らしに寄り添う温かさ」を感じさせるマテリアルです。

海外施工例 床:CCC-F5720 壁:CCC-F5721-M

海外施工例 床:CCC-F5840 壁:CCC-F5810・F5741-M

海外施工例 CCC-F5760・F5860

CCC-F5721-M















ヴィトラル / Vitral NEW
自然素材と相性の良いニュートラルカラーやペールトーン、さらにミッドセンチュリースタイルの鮮やかなカラーを合わせた12のバリエーションを厳選した色彩豊かなシリーズです。ジラードが好んだ幾何学の美学に通じる、現代的なミッドセンチュリースタイルで壁面を飾ります。幾何学的で美しい反射を見せる特殊面状と豊かな色彩の組み合わせは、オリジナリティに溢れる新時代のインテリアを創造します。

海外施工例 EKP-F1640

海外施工例 EKP-F1630

海外施工例 EKP-F1520・F1620
























かつてのミッドセンチュリーを象徴するジラードの思想に、いま再び新鮮さを感じるのは、私たちが「機能を超えた何か」を求めているからでしょう。タイルは、暮らしや心に響く情緒的なマテリアルへと進化しつつあります。「カサカルダ」と「ヴィトラル」が空間にもたらすのは、“整いすぎていない美しさ”と“日常に宿る小さな感動”です。私たちが暮らす空間に感性と詩情をもたらし、ふと微笑ませる――これこそがジラードが生涯追求したデザインの本質であり、これからのタイルデザインが目指すべき新しい方向性ではないでしょうか。当社のタイルが、皆さまの暮らしを温かく彩ることを願っています。