2026年9月21日から25日まで、イタリア・ボローニャで開催された世界最大級のセラミックタイル見本市「CERSAIE 2026」。今年も世界各国の主要ブランドが集まり、これからのデザインの潮流を予感させる多彩な新作が発表されました。広大な会場を巡り、各ブースの新作を見ていく中で改めて感じたのが、石目表現の解像度がさらに高まっていることです。天然石をモチーフにしたタイルは今や定番ともいえる存在ですが、今年は「STONE(石)」という広義のジャンルで捉えるのではなく、ライムストーン、ブレッチャ、チェッポ・ディ・グレ、クォーツサイトなど、それぞれの石が持つ個性をより深く読み取り、セラミックタイルへ落とし込む傾向がより顕著になっていました。ブレッチャでは、大小の岩片が複雑に重なり合う断片的な模様。チェッポ・ディ・グレでは、不規則に混じる礫や石片がつくる独特の粒状感。コラムvol.43で取り上げたクォーツサイト「タージ・マハル」も今年は数多くのブランドで見られ、パールやクリームを思わせる柔らかなベースに、繊細なヴェインや結晶の表情を重ねたタイルが登場していました。コラムvol.43「琥珀の光とタージ・マハル」を読む
そんな多様な石の中で、今回コラムで着目するのは「ライムストーン」です。会場を歩いていると、アイボリーやベージュ、グレージュを基調とした非常に穏やかな石目が繰り返し目に入りました。しかし、近づいてみるとその印象は少し変わります。細かな粒子や小さな化石、わずかに表現されたヴェイン模様など、遠くから眺めたときには静かな一枚の面に見えたものが、近づくほどにさまざまな表情を持つ素材として見えてきます。色についても同様で、一見同じ色合いに見えても、わずかに黄みを含んだ色、砂を彷彿とさせる色、グレーを帯びた色など、少しずつニュアンスを変えながら展開するコレクションが多く見られました。大胆な模様によって石らしさを表現するのではなく、細部をより丁寧に読み取っていく──CERSAIE 2026では、そんなライムストーンの魅力を緻密に掘り下げた表現が目を引きました。
イタリア・ボローニャで開催された世界最大級のセラミックタイル見本市「CERSAIE 2026」
海の記憶を残す、ライムストーン
ライムストーンは、日本語では「石灰岩」と呼ばれる堆積岩で、主に炭酸カルシウムからできています。その成り立ちはひとつではなく、海洋生物の殻や骨格など炭酸カルシウムを含む物質が堆積し、長い年月をかけて岩石となったものや、水中の炭酸カルシウムが沈殿することで形成されたものがあります。こうした成り立ちゆえに、石の内部に貝殻などの化石片が残されていることもあります。
化石や細かな粒子を含む、ポルトガル産の淡いベージュ色の石灰岩
Lsistone / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0 / Cropped from original
貝殻やその破片が堆積して形成された、化石を豊富に含む石灰岩
Amcyrus2012 / Wikimedia Commons / CC BY 4.0 / Cropped from original
大胆な模様を持つ大理石や異なる岩片の重なりが印象的なブレッチャに比べると一見控えめに見えるライムストーンですが、細かな粒子が均質に広がるもの、化石や貝殻片が点在するもの、淡いヴェイン模様や濃淡を持つものなど、その表情はさまざまです。静かな石だからこそ、細かな違いがその石ならではの個性になる──。今年のCERSAIE 2026では、まさにその“小さな違い”に目を向けた表現が印象的でした。
CERSAIE 2026──静かな石が、より緻密に
CERSAIE 2026で発表されたライムストーン系のタイルを見ていくと、単に石の色や模様を写し取るだけではなく、天然石が持つ細かな特徴まで緻密に表現する傾向が見えてきます。展示会場では、3億年以上前に形成されたヨーロッパの石灰岩をモチーフに繊細な化石の表情を活かしたコレクションや、単一のライムストーンを再現するのではなく、産地や表情の異なる複数の石灰岩をひとつのコレクションとして展開する提案も見られました。
表現の進化は模様だけにとどまりません。マットで落ち着いた質感に加えて、柔らかく磨いたような表情や細やかな凹凸を持たせるなど、同じ石目を異なる表面仕上げで展開し、光沢や触感の違いまで表現する手法も、近年の石目タイルに定着しつつあります。会場で実物を見ると、その違いはより鮮明です。少し離れて眺めたときには落ち着いたニュートラルカラーの面として見え、近づいていくと細かな化石や粒子が現れ、さらに見る角度を変えることで光を受けた微細な凹凸や質感が浮かび上がります。天然石らしさを“模様”だけで表現するのではなく、距離や光、触れたときの質感まで含めて表現する──これも、CERSAIE 2026で感じられたライムストーン表現の進化のひとつといえるでしょう。
色についても、ライムストーン系のタイルには共通する傾向が見られました。アイボリー、サンド、ベージュ、グレージュ、温かみのあるグレーなど、多く目にしたのは自然になじむ穏やかなニュートラルカラーです。ただし、単に「ベージュ系が増えた」ということではありません。同じベージュでも細やかな粒子を感じるもの、化石の痕跡が溶け込んだもの、わずかな色の濃淡によって石らしい奥行きを感じさせるものなど、色とともにその石が持つ質感まで表現していることが特徴です。これまでのニュートラルカラーが空間になじむ色として選ばれてきたとすれば、現在はその一歩先へ。色だけではなく、その背景にある石の質感や成り立ちまで含めて捉えるような表現へと進化しているように感じます。石の模様を緻密に再現できるようになった現在だからこそ、化石や粒子、鉱物片、繊細なヴェイン、色の揺らぎ、微細な凹凸といった細部へのこだわりが、これまで以上に石の個性を際立たせる重要な要素になっているのかもしれません。
化石と粒子がつくる、静かな奥行き
ソルプレーゾ / Sorpreso NEW
こうしたライムストーンの魅力を感じさせるコレクションのひとつが「ソルプレーゾ」です。天然石が持つ豊かな質感と化石の微細なインクルージョンを再現した石目調タイルで、近づくほどに見えてくる繊細な表情の積み重ねによって、自然石らしい奥行きを生み出しています。面状は、光を穏やかに受け止める平面状、控えめな艶が石の色や模様を引き立てる水磨き面状、より触覚的な石肌を感じさせる粗目を展開しており、同じ石目でも表面の仕上げによって異なる表情を楽しむことができます。また、全アイテムに抗菌技術「PROTECT」を採用しており、デザイン性と機能性を兼ね備えているのも特徴です。
壁:LEP-AC9420 床:LEP-AC9410
LEP-AB9450
上から粗目・平・水磨き
化石を含む石がつくってきた景観
サラントブルゴーニュ / Salant Bourgogne NEW
新商品「サラントブルゴーニュ」も化石を含むライムストーンから着想を得たコレクションで、モチーフはパリ地方で見られる石灰岩です。中世以来、数々の代表的な建造物に用いられ、街の景観を形づくってきたこの石灰岩をもとに、自然が描いた繊細な模様と柔らかな色調を表現しています。ここでも化石は大胆な装飾として主張するのではなく、石の表情をつくるひとつの要素として溶け込んでいます。形状は1200×600角と400角を展開しており、400角は空間の広さに応じて扱いやすいスケール感です。長い年月にわたり建築とともに受け継がれてきた石の表情を、現代の空間へ。石の中に残された小さな痕跡から、その背景にある時間までも想像させるコレクションです。
床:JSN-AC5040 壁:JSN-AC5030
JSN-AC5020
JSN-AC5030
トスカーナの風景を写す、穏やかな石
ヴァルドルチャ / Val D'orcia NEW
「ヴァルドルチャ」が再現するのは、イタリア・トスカーナの世界遺産、オルチャ渓谷に由来する石灰岩「Orcia stone」です。古くから建築や芸術を彩ってきた石灰岩の奥深い表情に、雄大な自然と調和するニュートラルな色彩を重ね、トスカーナの風景を思わせる穏やかな石目へと仕上げています。「ソルプレーゾ」や「サラントブルゴーニュ」が化石や粒子といった細やかなディテールに着目したコレクションだとすれば、「ヴァルドルチャ」が表すのは石灰岩そのものが持つ穏やかな濃淡や色幅です。形状は1200角、1200×600角、600角の3種類で、なかでも1200角は石目を大きな面として見せることができるため、ライムストーンの持つ穏やかな表情が、空間をより広く伸びやかに見せてくれます。
GGC-AD7040
GGC-AD7020
静かな石だからこそ、見えてくるもの
CERSAIE 2026の会場でライムストーン系の新作を見ると、石目調タイルの進化が必ずしも“より大きく、より華やかな模様”だけに向かっているわけではないことに気づかされます。一見すると控えめなライムストーンですが、近づいて見ることで初めて気づく繊細な表情があり、さらに光の当たり方や見る角度によってその印象も変化していきます。そうしたわずかな違いの中に、それぞれの石ならではの個性が現れています。デジタル技術や製造技術の進化によって、天然石の色や模様を精緻に再現したセラミックタイルは今や珍しいものではなくなりました。だからこそ、その先にあるのはただ「天然石に似せる」ということではなく、その石が持つどんな特徴に目を向け、どのようにセラミックタイルとして表現するのかということなのかもしれません。石をひとつの「柄」として捉えるだけではなく、その中に刻まれた時間や成り立ち、そして細かな表情まで丁寧に読み取っていく──。CERSAIE 2026で目にしたライムストーンからは、そんな石目表現の新たな広がりを感じ取ることができました。
次回、CERSAIE 2026でも存在感を見せた「ブレッチャ」の魅力を紐解きます。