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TILE TREND COLUMN #53

断片が描く、石のリズム──CERSAIE2026で注目したブレッチャ

2026年9月、イタリア・ボローニャで開催された「CERSAIE 2026」。前回のトレンドコラムvol.52では、会場で目を引いた石種のひとつとして、穏やかな表情の中に化石や粒子などの繊細な特徴を持つ「ライムストーン」に着目しました。今回取り上げるのは、それとは対極の魅力を持つ「ブレッチャ(Breccia)」です。大小の石片が不規則に重なり、異なる色や模様がひとつの面の中で交差するブレッチャ。CERSAIEの会場でも、大きな壁面に大胆なブレッチャ調のタイルを使用した展示は、離れた場所からでも足を止めるほど鮮烈な印象を残しました。しかし、今年のブレッチャを見ていて興味深かったのは、昨年から続く大判で華やかな石目表現だけではありませんでした。石片同士のコントラストを活かして空間の主役として見せる意匠の一方で、色の差を抑えて穏やかな表情へと再解釈したもの、さらにはライムストーンなど異なる石の特徴を組み合わせたものまで、その表現はさまざまでした。同じ「ブレッチャ」という石を、どのように読み取り、どんな特徴を引き出すのか──。CERSAIE 2026では、その解釈の深まりが印象的でした。

砕けた石が生み出す、不規則な模様

そもそも、ブレッチャとはどのような石なのでしょうか。ブレッチャは一般的に、角張った岩石や鉱物の破片がより細かな物質や鉱物によって固められた岩石を指します。複数の石片からできているという点では「礫岩(conglomerate)」にも似ていますが、大きな違いは石片の形にあります。礫岩を構成する石は、他の石とぶつかりながら水によって運ばれる過程で角が削られるため丸みを帯びたものが多いのに対し、ブレッチャは断層の動きや火山活動直後の砕けた石が持つ角ばった輪郭を残す石です。


ヴァチカン美術館の床に装飾された、赤や緑、白の石片が複雑に入り混じるブレッチャ

その成り立ちはひとつではなく、地殻変動によって岩石が砕かれてできるものや、堆積作用、火山活動によって形成されるものなどがあります。大きさの異なる石片、不規則な輪郭、その隙間を埋める細かな物質。そして、それぞれの石が持つ異なる色や模様。こうした断片がひとつの石の中に集まることで、ブレッチャならではの複雑なリズムが生まれます。均一ではないからこそ感じられるドラマチックな動き。その不規則さこそが、ブレッチャの大きな魅力といえるでしょう。

ヴァチカン美術館「動物の間」 大小の石片が重なり合うブレッチャ状のジャッロ・アンティコでつくられたライオン

CERSAIE 2026──大胆さと静けさ、両極へ

ブレッチャと聞くと、色の異なる大きな石片が入り混じった装飾性の高い石を思い浮かべる方も多いかもしれません。CERSAIE 2026でも、そうしたブレッチャ本来の力強さを活かした提案もいくつか見られました。あるブランドでは、北イタリアの地質形成に着想を得て、異なる石片が重なり合う様子を象嵌のように表現し、まるで一枚の大きな抽象画を思わせる存在感のあるコレクションを発表していました。一方で興味を惹かれたのは、ブレッチャの持つ華やかさを少し抑えた表現です。穏やかなニュートラルカラーにブレッチャの模様を落とし込み、石片同士の色差を抑えたものや、艶を抑えた質感によって空間に取り入れやすい表情へと再解釈した新作も目に留まりました。また、ライムストーンと同様に、表面仕上げにも広がりが見られます。マットに加え、柔らかな光沢を持つシルクマット調や細やかな凹凸を加えた仕上げなど、同じブレッチャでも質感の違いによって印象を変える提案が見られました。強いコントラストによって視線を集めるだけではなく、不規則な石片を柔らかなリズムとして空間へ取り入れ、ブレッチャ特有の“動き”を残しながら、その見せ方はより多様になっています。大胆で力強い表情と、色や質感を抑えた穏やかな表情──その両方が同時に見られたことも、CERSAIE 2026のブレッチャから読みとった特徴のひとつです。
 

異なる石の個性を、ひとつの表情へ

さらに会場を見ていく中で気になったのが、ひとつの天然石をそのまま再現するのではなく、複数の石から特徴を取り入れ、新しい石目をつくり出す表現です。近年のセラミックタイルは、コラムvol.45でも少しご紹介したように、天然石を精緻に再現するだけでなく、異なる素材の特徴を組み合わせ、新たな表情を生み出すところまで表現の幅が広がっています。たとえば、ライムストーンが持つ穏やかで静かな表情と、ブレッチャが持つ不規則な石片の動き──対照的な二つの石の特徴を重ねることで、ひとつの天然石を忠実に再現したものとは一味違う、新たな石目が生まれます。こうした天然石の制約を越えた自由な組み合わせは、今やセラミックタイル独自の表現方法といえます。
そして、この考え方を体現しているのが新商品「ブレッチャリーナ」です。


カラー1640(2800×1200角6厚・1200角 受注輸入形状)

静けさと力強さを、ひとつの石へ
ブレッチャリーナ/ Breccialina  NEW

「ブレッチャリーナ」は、穏やかなライムストーンと力強いブレッチャの二つの異なる石の風合いを融合したコレクションです。ベースにはライムストーンを思わせる落ち着いた表情を持ちながら、ブレッチャ特有の不規則な石片や色の重なりを取り入れています。ブレッチャならではの動きをそのままに、ニュートラルな色彩の中に自然に溶け込ませることで、静けさと躍動感が共存する石目に仕上げています。もうひとつ注目したいのが、表面の質感です。岩面は細やかな凹凸が施されており、光を受けると陰影が生まれ、同じ石目でありながら平面状とは異なる奥行きを楽しむことができます。穏やかなライムストーンと力強いブレッチャ。異なる二つの個性を重ねることで生まれる、新しい石の表情を楽しめるコレクションです。


床:カラー1610(1200角 受注輸入形状) 壁:カラー1640(2800×1200角6厚 受注輸入形状)
1610(平)
1710G(岩面)
1620(平)
1720G(岩面)
1630(平)
1730G(岩面)
1640(平)
1740G(岩面)
1650(平)
1750G(岩面)

不規則だからこそ、生まれる美しさ

ブレッチャの魅力は、整った模様ではなく、異なる大きさや色を持つ石片が不規則に重なり合うことで生まれる、予測できない表情にあります。ひとつとして同じ形のない断片。その輪郭や色の変容が連なることで独特のリズムが生まれ、空間にも豊かな動きをもたらします。CERSAIE 2026で印象的だったのは、そうしたブレッチャ本来の個性を活かしながら、その表現がより自由に広がっていたことです。大胆なコントラストによって空間の主役として見せる表現、色や質感を整えて大きな面へと穏やかに広げる表現、そして異なる石の特徴を重ね、新たな表情を再構成する表現まで、その見せ方はさまざまでした。整っていないからこそ生まれる美しさを、現代の空間へとつなげていく──。CERSAIE 2026で目にしたブレッチャからは、石の不規則さそのものを個性として楽しむ、これからの素材表現の広がりを感じることができました。

 
 

2026.10.9

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