石目調タイルの傾向を辿ってみると、興味深い変化が見えてきます。これまで石目調タイルは、カラカッタ、トラバーチン、オニキス、ライムストーンなど、世界的に知られた石の表情を再現することが大きなテーマのひとつでした。その流れは現在も続いている一方で、近年は「どこの土地で生まれた石なのか」まで含めて「素材のルーツ」を重んじる傾向が強まっており、特に地中海地域、とりわけ南イタリアの石への関心の高まりが顕著な傾向といえます。そこに見いだされているのは、美しい色や模様だけではなく、その土地が持つ歴史や文化、時代を超えて受け継がれてきた佇まいです。色彩としては、ホワイト、クリーム、ベージュ、サンド、ハニーなど、淡く温かな色が目立ちます。しかし、今回注目したいのは「ベージュ系が流行している」ということだけではなく、不均一な陰影や異なる石片、長い年月を経て浸食された表情まで緻密に再現した石目表現です。この感覚は、2026年のミラノサローネで示された潮流とも重なります。Salone del Mobile.Milano 2026が掲げた「A Matter of Salone」では、素材を単なる物質としてではなく、起源や記憶、そして新たな可能性を持つものとして捉えており、キャンペーンの素材のひとつ「Stone=石」には、「origin=起源」という意味が与えられています。どこにでもある美しい石目ではなく、その石が、どこの風景から生まれたのか――色や模様の奥にある背景を知ることは、素材の見え方をいっそう豊かなものに変えていきます。
街の建築をつくった、南イタリアの石
南イタリアの石を語るうえで、象徴的な存在のひとつが「Pietra Leccese(ピエトラ・レッチェーゼ)」、レッチェ石です。イタリア南東部、ブーツの“かかと”にあたるプーリア州、そのサレント半島の中心に位置するレッチェでは、地元で採れる淡い黄色の石灰岩が、街の建築を形づくってきました。レッチェ石の大きな特徴は、柔らかく加工しやすいことです。その性質を活かした緻密な細工は、レッチェの街で教会や宮殿のファサードを覆う芸術的なまでに繊細な装飾を可能にしたのです。
レッチェのドゥオーモ広場
レッチェ石を用いた建築が街特有の景観をつくっている
Bernard Gagnon, CC0, via Wikimedia Commons
レッチェ・メルピニャーノにあるレッチェ石の採石場
"Teresa Menduni", CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
特に「レッチェ・バロック」と呼ばれる建築では、柱や人物、植物などをモチーフにした複雑な彫刻が石の表面に刻まれました。代表的な建築のひとつとして、サンタ・クローチェ聖堂(Basilica di Santa Croce)があり、精緻な彫刻で覆われたファサードは、柔らかなレッチェ石だからこそ可能になった表現といえます。プーリア州の観光情報でも、石肌に南イタリアの強い太陽が当たることで装飾の陰影がより鮮明に浮かび上がり、この街特有の景観を生み出していることが紹介されています。土地で採れた石、その石を彫り続けてきた技術、そして南イタリアの光——そのすべてが重なって、レッチェならではの風景がつくられてきました。
レッチェ・バロックを代表するサンタ・クローチェ聖堂
ファサードには 加工しやすいレッチェ石を活かした精緻な彫刻が施されている
Bernard Gagnon, CC0, via Wikimedia Commons
南イタリアの石を、現代のサーフェイスへ
ピエトレッチェ / Pietlecce NEW
「ピエトレッチェ」は、そんな趣あるレッチェ石をモチーフにした石目調タイルです。温かみのある色調と穏やかな濃淡や質感を忠実に再現し、明るくやわらかな表情に仕上げています。色は4色展開で、形状は1200×600角・900角・600角・600×300角の4種類を揃えています。さらに、石の色や模様をやわらかく見せる水磨きと、より石らしい質感を感じられる粗目の2つの面状があり、空間や用途に合わせて異なる表情を楽しめます。モチーフとなったレッチェ石が、街の教会や大聖堂を彩り、長くレッチェの景観をつくってきました。産地のルーツを知ることでその魅力はより深いものへと変わります。「ピエトレッチェ」は、南イタリアの土地と建築文化を継承し、石の魅力を現代の空間へとつなぐコレクションといえます。
BLS-AB3740H
BLS-AC3840G
BLS-AB3740H
石の連なりが生む、地中海のリズム
セディモラ / Sedimora NEW
「セディモラ」は、レッチェ石のように特定の石種を再現したものではなく、ヴィンテージ感のある石の風合いと、地中海の晴れやかな色調を組み合わせたコレクションです。使い込まれた石を思わせる表情と明るい色彩が重なり、古い街並みを歩くような、どこか温かみのある景色をつくります。その特徴を印象づけているのが、600×398角・398角・398×198角・198角の4形状を組み合わせたパターン張りです。豊かな色彩の石目と多様な形状が重なり合い、さまざまな石を丹念に敷き重ねてきたような、奥行きのある表情を空間に広げてくれます。石の色や質感だけでなく、その並び方やリズムまで、地中海の街並みを写し出すコレクションです。
CPR-MI6120G・X6020
CPR-MI6020
CPR-MI6110G(粗目ラフエッジ)
CPR-MI6120G(粗目ラフエッジ)
CPR-MI6130G(粗目ラフエッジ)
石目調タイルの表現はその技術が進化し、いまでは世界各地のさまざまな石の表情をさらに精緻にセラミックタイルで表現できるようになりました。だからこそ、これからは見た目の美しさだけでなく「その石はどこから来たのか」まで想像してみる──そんな楽しみ方もできるのではないでしょうか。地中海・南イタリアの石への関心の高まりと、Salone del Mobile.Milano 2026が示した「素材の起源」という視点を重ねると、石目表現もまた、色や模様を再現するだけでなく、その背景にある土地や文化まで感じさせるものへと広がっていることが見えてきます。「ピエトレッチェ」と「セディモラ」は、どちらも表面だけを見ればクリームやベージュを基調とした穏やかな石目ですが、ひとつはレッチェという街を形づくってきた石から、もうひとつは地中海の石造りの街並みに見られる石の色と配置のリズムから、それぞれの風景を現代の空間へとつないでいます。どの土地で生まれ、どのような建築に使われ、どんな街並みを形づくってきたのか──その背景にまで思いを馳せることで、石目調タイルの魅力はさらに豊かに広がり続けるでしょう。