ざらつきや孔を残した石肌と、光を受けて色を変える虹彩。対照的な感覚を持つ二つの表情ですが、2026年のデザインを見ていくと、素材そのものの質感への関心と、メタリックな輝きへの再注目という流れが見えてきます。Salone del Mobile.Milano 2026が掲げた「A Matter of Salone」では、「matter=物質」をデザインの出発点として捉え、石や木など、素材そのものが持つ表情に目が向けられました。さらに、2026年のミラノデザインウィークでは、溶岩石、焼いた木材、コルク、粘土などを用い、その質感を活かした展示も数多く登場しています。滑らかに仕上げることだけを美しさとせず、粗さや手仕事の跡まで含めて素材の個性として捉える姿勢が、2026年のマテリアル表現のひとつの側面として読み取ることができます。一方、セラミックタイルの世界では、ゴールドを中心としたメタリック表現も再び存在感を増しています。イタリア陶磁器業界のプロモーションブランド「Ceramics of Italy」が発表したトレンドレポートでは、前回のコラムvol.50で取り上げた「オーガニック・ミニマリズム(Organic Minimalism)」と並び、「Gilded Earth」も注目すべき潮流のひとつとして紹介されました。今回は、“大地から生まれた粗い質感と、光によって移ろう輝き”──。この2つの表情を重ね合わせた新商品「ボルケネント」をご紹介します。
火山がつくる、さまざまな石の表情
火山岩は、地中から上昇したマグマが地表またはその近くで冷え固まることで生まれる火成岩です。地表に噴出したマグマは「溶岩」と呼ばれ、冷却される過程でさまざまな表情を生み出します。その特徴のひとつが、表面や内部に残る小さな孔です。マグマにはガスが含まれており、地表に近づき圧力が下がると気泡が生じます。そのまま溶岩が固まると、残った気泡の跡が孔として残ることがあり、この孔は「vesicle(ベシクル)」と呼ばれます。ただし、すべての火山岩が同じように多孔質で、ごつごつとした表情になるわけではありません。その違いをわかりやすく示しているのが、ハワイ語に由来する「パホイホイ(pāhoehoe)」と「アア(‘a‘ā)」という二つの溶岩です。パホイホイは、滑らかで波打つような表面をつくるのに対し、アアは角張った岩片が重なる、粗くごつごつとした表情が特徴です。火山由来の石の魅力は、単に“黒くて粗い石”という点だけではありません。同じ火山から生まれる溶岩でもまったく異なる質感を見せる点に、火山が生み出す石ならではの興味深さがあります。
ハワイ島にあるハワイ火山国立公園 キラウエア火山
パホイホイ溶岩
滑らかで波打つような縄状の表面が特徴
Photo: Tari Noelani Mattox / U.S. Geological Survey (USGS)
パホイホイ溶岩
Photo: Hawaii Volcano Observatory / U.S. Geological Survey (USGS)
アア溶岩
角張った岩片が重なるごつごつとした表面が特徴
Photo: U.S. Geological Survey (USGS)
火山由来の質感を生活空間へ
こうした火山由来の素材は、2026年のデザインにも取り入れられています。Salone del Mobile.Milano2026では、溶岩石を用いたダイニングテーブルやコーヒーテーブルが発表されました。火山岩や溶岩石そのものが2026年の大きなトレンドというわけではありません。その中でも、素材が持つ凹凸や不規則さをひとつの個性として活かす動きの中で、火山由来の石は注目したいマテリアルのひとつと言えます。自然が生み出した不均一な質感をそのまま楽しむことが、家具や空間を彩る新たな表現へとつながっています。
Gilded Earth──大地の質感に、光を重ねる
併せて注目したいのが、「Ceramics of Italy」が2026年の潮流として挙げた「Gilded Earth(自然素材の質感にゴールドのアクセントを加えるスタイル)」です。トレンドレポートでは、メタリックなディテールが再び存在感を高め、なかでもゴールドを「new neutral=新しいニュートラル」と表現しています。特徴的なのは、ゴールドやメタリックを華やかな装飾として見せるのではなく、石目模様に沿って繊細な輝きを加えたり、立体的なテクスチュアとメタリック釉薬を組み合わせたりする試みです。さらに、ゴールドをグリーンやブラウンといったアースカラーに合わせる表現も紹介されています。
CCH-R5000
荒々しい素材に、虹彩を宿す
ボルケネント / Volcanento NEW
新商品「ボルケネント」は、火山岩やいぶし煉瓦などの素朴なベース素材に、角度によって虹彩を放つラスター釉を組み合わせたモザイクタイルです。約68×34mmの小さな三角形には一部ラスター加工が施され、光の当たり方や見る角度によって色調が驚くほど変化します。また、手づくりの風合いを活かした形状や寸法、ラスターのかかり具合のばらつきに加え、大きな色むらや色幅も特徴のひとつです。カラーは6色展開で、素材や仕上げも同じではありません。CCH-R5030には火山岩を使用し、CCH-R5040にはいぶし加工されたタイルが含まれています。
CCH-R5030
古くからあるラスターを現代の表情へ
ラスターそのものは、決して新しい装飾技法ではありません。陶磁器に虹彩をもたらすラスターの技法は、9世紀のアッバース朝下、現在のイラクで発展したとされています。銀や銅などを含む金属系の顔料を用いて複数回焼成することで、表面に独特の虹彩やメタリックな輝きを生み出してきました。その技術は12世紀頃までにイベリア半島へも伝わっています。長い歴史を持つラスターですが、現代ではその輝きだけを主役にするのではなく、異なる素材感と組み合わせることで新たな表情が生まれています。
「ボルケネント」も、ラスターの虹彩だけを際立たせるのではなく、火山岩やいぶし煉瓦などの素朴な素材感と組み合わせたコレクションです。粗さのある表面に繊細な輝きが重なることで、それぞれの質感がより印象的に引き立ちます。古くから受け継がれてきたラスターの輝きと、素朴で不均一な素材感──その対比が、壁面に「ボルケネント」ならではの奥行きと変化を生み出すでしょう。