ベージュや薄いブラウン──私たちが“砂の色”と聞いて思い浮かべるのは、そんな穏やかな色かもしれません。しかし、世界の砂漠に目を向けると、そこには既成概念を越えた豊かな色彩が息づいています。白い塩原、赤みを帯びた砂丘、灰褐色の乾いた地表、鉱物によって複雑な色を見せる岩山。地質や含まれる鉱物、そして吹き渡る風によって、砂漠は土地ごとに独自の色と表情を描き出します。いま、そんな砂や土を思わせる自然の色や質感が、セラミックデザインの領域でも改めて注目されています。イタリア陶磁器業界のプロモーションブランド「Ceramics of Italy」が発表したトレンドレポートでは、「オーガニック・ミニマリズム(Organic Minimalism)」が注目すべき潮流のひとつに挙げられています。彩度を抑えたニュートラルカラーを基調としながら、色や柄ではなく表面そのものに豊かさを持たせる方向へ。石だけではなく、粘土(clay)、砂(sand)、藁(straw)といった自然素材に着想を得た触覚的な表現も生み出されています。繊細な凹凸やマットな質感によって同系色の中に奥行きを生み出す「textural monochromatics=質感による単色表現」も、その特徴のひとつです。昨年のCERSAIE 2025でも、ベージュやサンド、クリームなどの淡いニュートラルカラーと、触覚的な表面表現が注目されました。滑らかな面だけで仕上げるのではなく、素材感を加えることでミニマルな空間にも豊かな表情を生み出す流れが、2026年のセラミックデザインへとつながっています。今回は“砂”に着目し、2つのアプローチからその魅力をご紹介します。
砂漠は、ひとつの色ではない
世界の砂漠を見渡してみると、“砂の色”という一言では括れないほど、多様な色彩が広がっています。例えば、南米チリのアタカマ砂漠。世界でも特に乾燥した地域のひとつとして知られるアタカマ砂漠には、広大な『アタカマ塩原(Salar de Atacama)』があります。NASAの衛星画像では、塩原の淡い地表に加え、周囲にはタンやブラウンの土壌、さらにバーントオレンジからタンまでの火山性の岩や土が見られます。ひとつの砂漠の中にも、白に近い淡い色、ベージュやブラウン、赤みを帯びた大地の色など、さまざまな色彩が重なりあっています。
南米チリ・アタカマ砂漠
アタカマ砂漠に見られる塩の結晶
北アフリカのサハラ砂漠の色も、単なるイエローではありません。NASAが撮影したアルジェリア東部の砂丘では、大きな砂丘がバーントオレンジに見える一方、風によって砂が取り除かれた場所には淡いベージュグレーの泥や塩の地表が現れています。風によって砂が堆積する場所と吹き払われる場所が生まれることで、ひとつの景色の中にも異なる色と表情がつくられています。
北アフリカ・サハラ砂漠
NASA撮影:アルジェリア東部の砂丘
アメリカのモハーヴェ砂漠では、風そのものが景色をつくっています。モハーヴェ国立保護区の『ケルソー・デューンズ(Kelso Dunes)』は、風によって運ばれてきた砂が長い時間をかけて堆積して形成された砂丘です。風向きの変化によって砂が移動し、砂丘の稜線や地表に描かれるパターンも少しずつ姿を変えていきます。
アメリカ・モハーヴェ砂漠 Mx. Granger, CC0, via Wikimedia Commons
そしてエジプトのシナイ半島。ここは色彩豊かな岩がつくる景観が印象的です。『カラード・キャニオン(Colored Canyon)』では、色彩を帯びた岩の層が、歳月を経た侵食によって渦を描くような複雑な模様を見せています。
エジプト・シナイ半島のカラード・キャニオン(Colored Canyon)
4つの砂漠を表現したタイル
ドゥーニモッセ / DUNE MOSSE NEW
新商品「ドゥーニモッセ」は、世界各地に広がる砂漠の色と風景から着想を得たコレクションです。4つのカラーにはそれぞれ実在する砂漠の名前が付けられ、アースカラーと、風によって描かれる砂のような模様を融合させて、その世界観を表現しています。
カラー5110・5210G|Atacama(アタカマ砂漠)
CDS-AC5210G
カラー5120・5220G|Sahara(サハラ砂漠)
CDS-AC5220G
カラー5130・5230G|Mojave(モハーヴェ砂漠)
CDS-AC5230G
カラー5140・5240G|Sinai(シナイ半島)
カラー5140(1200角 受注輸入形状)
“風紋”を思わせる縞模様も大きな特徴です。砂粒は風に運ばれ、積もり、また移動する──その繰り返しによって、地表には波のような線“風紋”が描かれます。「ドゥーニモッセ」は、光や風、時間によって形づくられる砂漠の景観を、ゆったりと流れる石目として表現しています。サイズは1200×600角と600角で、面状は平と粗目の2種類。カラー展開だけでなく、流れるような模様と面の質感まで含めて、その静かな風景を空間へと取り入れるコレクションです。
「砂」を触感として表現したタイル
ソルルーペ / SOLRUPE NEW
一方、新商品「ソルルーペ」は、砂漠そのものをモチーフにしたタイルではありません。商品名は、イタリア語で太陽を表す「SOL(ソル)」と、岩や崖を表す「RUPE(ルーペ)」を組み合わせており、地中海の燦々と輝く太陽に照らされた岩肌をイメージして名づけられています。モチーフとなっているのはヨーロピアンライムストーンで、その表面を特徴づけているのが、まるで微細な砂を均一にまいたような繊細なテクスチュアです。最新の3D技術によって、マイクロブッシュハンマー加工を思わせる細かなざらつきを表現し、石の表情に繊細な奥行きを与えています。(マイクロブッシュハンマー加工:石の表面を極小の点状に叩き、繊細な凹凸と柔らかな光の反射を生むテクスチュア)
屋内床:ABI-AE1820 屋外床:ABI-AE1920G 壁:カラー1820(2800×1200角6厚 受注輸入形状)
ABI-AE1820
ABI-AC1830
色はアイボリー、サンド、アッシュの厳選した3色で、形状は1200角、1200×600角、600角を展開しています。大きな面の中に広がるのは、強く主張する模様ではなく、ごく繊細な粒子感です。近づいたとき、触れたとき、光が斜めに当たったとき、表面の微細な凹凸が浮かび上がります。こうした表現は、2020年代に入ってからの「オーガニック・ミニマリズム(Organic Minimalism)」が示す方向性とも重なります。色数を増やしたり、大きな模様で装飾するのではなく、同じニュートラルカラーの中で、砂や土を思わせる触感や微細な凹凸によって奥行きをつくる、表面そのものの豊かさを楽しむデザインです。
砂が教えてくれる、静かな豊かさ
「ドゥーニモッセ」は世界の砂漠が持つ色と風が刻むリズムを。「ソルルーペ」は砂粒を思わせる繊細な触感を。同じ「砂」というキーワードを起点に、一方は風景を、もう一方は質感をそれぞれの異なるアプローチで表現しています。自然の中にあるわずかな色の揺らぎや繊細な質感を取り入れることで、空間に豊かさを生み出す──そこに、2026年のセラミックデザインのひとつの方向性が感じられます。