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TILE TREND COLUMN #47

モネが見つめた光とマテリアル

光は、壁が纏う衣服である──光とマテリアルの邂逅

光は、それ単体では姿を現しません。何かにぶつかり、跳ね返り、あるいは吸い込まれることで、はじめて私たちの目にその「表情」を届けます。もし、17世紀の巨匠ヨハネス・フェルメールが、北窓から差し込む柔らかな光を「室内のタイル」に宿らせ、閉ざされた空間の中に永遠の静謐を描き出した画家だとするならば、クロード・モネは、建築の「外壁(ファサード)」という広大なキャンバスが、刻一刻と変化する大気や太陽の光によって、無限の表情へと変容する様を見つめ続けた画家といえるでしょう。フェルメールが描いたのが、光がもたらす「静かな対話」だとすれば、モネが追い求めたのは、建築という不動の存在が、光という流動的な衣服を纏うことで生まれる、美しい「実存の揺らぎ」でした。変わらないはずの建築が、光によって絶えず表情を変えていく。そこに、モネが見つめた光とマテリアルの関係があります。


クロード・モネ(1840-1926)

『散歩、日傘をさす女』(1875) 所蔵 : National Gallery of Art, Washington
クロード・モネ(1840-1926)

フランス印象派を代表する画家。物体そのものの形よりも、そこに当たる光や空気の変化を描き出すことに生涯を捧げ、同じ風景や建築を繰り返し描くことでその瞬間ごとの表情を捉え続けた。建築もまた、不動の構造物としてではなく、光を映し出す繊細な「皮膚」のように捉えていた点が特徴。

ルーアン大聖堂|石の皮膚が、熱を帯びる瞬間

モネはフランス・ルーアンの大聖堂に向き合い、30枚を超える連作を描き上げました。そこで彼が凝視したのは、聖堂そのものの「形」ではなく、石の表面に刻まれた「凹凸(テクスチュア)」に宿る光の粒子でした。朝の霧の中では蒼白く沈んでいた石壁が、真昼の陽光を浴びると、荒々しい筆致(インパスト)の隙間に光を溜め込み、黄金色の熱を放ちはじめます。モネがキャンバスの上に絵具を厚く盛り上げたのは、単なる描画技法ではありません。光を乱反射させ、影を複雑に絡みつかせるための「受容体」を、自らの手でつくり出す必要があったからです。平滑な面では、光はただ通り過ぎてしまいます。一方、凹凸のある表面には光が留まり、影が生まれ、わずかな起伏によって色の見え方まで変わっていきます。モネの描いた壁がこれほどまでに雄弁なのは、石の皮膚が、光という衣服を纏っているからなのかもしれません。この視点は、現代の建築やインテリアにおける素材選びにも通じます。色や柄だけでなく、表面の凹凸や艶、質感までが光と出会うことで、壁面の表情を大きく変えていくのです。


所蔵 : National Gallery of Art, Washington

所蔵 : National Museum Wales

所蔵 : Musée Marmottan Monet

所蔵 : Museum Folkwang

所蔵 : Clark Art Institute

所蔵 : Musée d'Orsay

所蔵 : The J. Paul Getty Museum

所蔵 : Museum of Fine Arts, Boston

所蔵 : Musée d'Orsay

所蔵 : Musée d'Orsay

所蔵 : Museum of Fine Arts, Boston

所蔵 : The Metropolitan Museum of Art

ロンドンの国会議事堂|霧と光のベールを纏う建築

舞台をロンドンに移したモネは、テムズ川の対岸からウェストミンスター宮殿を眺めました。ここでは「石」という硬質な素材が、霧という湿り気を帯びたフィルターを通して、光の中へと溶け込んでいく様が描かれています。霧に包まれた建築は輪郭を失いながらも、その奥底には確かな質量を秘めています。夕陽が霧を突き抜け、川面を黄金色に染め上げる瞬間、建築はもはやただの「構造物」であることをやめ、光そのものを呼吸する「生命体」のような存在へと変貌します。実体があるにもかかわらず、今にも消えてしまいそうな気配──その矛盾するような美しさが、建築に底知れない「奥行き」と、見る者を静かに圧倒する「品格」を与えています。モネが見つめていたのは、石そのものの色ではなく、霧や光、大気を通して現れる、その瞬間の色だったのでしょう。


所蔵 : The Metropolitan Museum of Art

所蔵 : The Art Institute of Chicago

所蔵 : Kunstmuseen Krefeld

所蔵 : Brooklyn Museum

所蔵 : Musée d'Orsay

所蔵 : High Museum of Art

所蔵 : National Gallery of Art, Washington

所蔵 : The Pushkin State Museum of Fine Arts

所蔵 : The Art Institute of Chicago

釉薬が溶ける、美しい色の境界──「スフマート」

モネの絵画では、建築や風景の輪郭が常にはっきりと描かれているわけではありません。霧や水蒸気、陽射しといった大気の中で、色と色の境界がほどけるように混ざり合い、見る時間によって異なる印象をつくり出します。この「境界を曖昧にする」という感覚から、現代のタイルへ視点を移してみます。2026年の新商品「スフマート」は、195×45mmの細長いボーダータイルで、名前の「スフマート(Sfumato)」は、イタリア語で煙を意味する言葉に由来し、色彩の境界を煙のようにぼかしながら、柔らかな階調を生み出すルネサンス期の絵画技法として知られています。スフマートという絵画技法とモネの表現は、時代も技法も異なります。しかし、輪郭を明確にするのではなく、色と色の境界をやわらかくほどき、光や空気を感じさせる表現は、モネが追い続けた世界にどこか通じるものがあります。
           

光の移ろいを、壁に宿す
スフマート / Sfumato NEW


SFU-02  目地 : AMJ-P31

「スフマート」は、独自の「ぼかし施釉」によって色の境界をやわらかく溶け合わせた壁タイルです。均一な一色で塗りつぶすのではなく、釉薬による繊細なグラデーションと色むらを残すことで、一枚一枚に異なる表情を生み出しています。また「スフマート」は岐阜県多治見市で生成される溶融スラグを釉薬に活用した環境配慮型のタイルでもあり、廃棄物由来の素材を新たな釉薬として活用しながら、その特性を意匠へと昇華させている点も特徴のひとつです。そして「スフマート」の表情をさらに豊かに見せるのが光です。窓から差し込む自然光の中では釉薬の濃淡や色の揺らぎがやわらかく浮かび上がり、間接照明やブラケットライトのもとでは見る角度によって一枚一枚の表情が少しずつ変化します。霧や大気の中で輪郭をほどき、刻一刻と変化する光を描き続けたモネの世界を思わせるように、「スフマート」もまた、明確な色の境界ではなく、その間に生まれる繊細な揺らぎを壁面に描き出します。光を受けることで少しずつ変化していく色の重なりにこそ、このシリーズならではの魅力があります。

SFU-01
SFU-02

モネが見つめ続けたのは、建築の固定された姿ではなく、光や空気を纏いながら絶えず変化していく姿でした。石の凹凸に陽光を溜め込み、熱を帯びていくルーアン大聖堂。霧の中へ輪郭を溶かすロンドンの国会議事堂。同じ壁であっても、光が変わればその表情も変わります。現代のタイルにおいても、色や柄だけでなく、釉薬の濃淡や艶が描き出す景色や、凹凸、グラデーションといった繊細な表現が、光を受けることでさまざまな表情を見せます。「スフマート」が描く境界の曖昧な色の重なりもそのひとつです。モネの眼差しを通して改めて素材を見つめることで、タイル選びにも色や形だけではない新しい視点の発見があります。光が差し込む方向、時間とともに変化する明るさ、そして壁面に生まれる陰影。それらすべてをひとつのデザインとして捉えることで、壁は一日の中で何度も異なる表情を見せてくれるでしょう。
光は、壁が纏う衣服である──。
その言葉を現代の空間に重ねてみると、マテリアルは単体で完成するものではなく、光によってその魅力をさらに深めていくものだと気づかされます。光とマテリアルが生み出す表情には、これからの空間づくりを豊かにする、まだ多くの可能性が秘められています。

 
 

2026.9.1
トップ画像『睡蓮の池』(1899)所蔵 : The Art Institute of Chicago

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