阿品の家
ure 合同会社
設計 ure 合同会社 撮影 足袋井写真事務所 足袋井竜也
リフォームとリノベーションのあいだ
広島湾の海岸線から北に徒歩15分ほど登った丘の上の角地にあるこの住宅は、 南側には瀬戸内海や宮島といった眺望が望め北側には緑ゆたかな林が広がる、静かで落ち着いた環境にある。 築34年を数える木造2階建ての住宅はしっかりとした造りで、状態も築年数と照らし合わせても非常に良く、大きく手を加えなくても暮らすことはできそうだった。 クライアントは3回目のオーナーチェンジで所有することとなり、今まで丁寧に使われてきたことを感じ取ることのできるこの住宅を受け継ぎ、住みつなぐこととなった。 夫婦と子どもの3人家族。それぞれの趣味や暮らしかたを互いに尊重しながらも、各部屋をゆるやかにつなぐ空間設計を行なった。障子や壁紙といった素材は、外の光を柔らかく受け止め空間に静かな変化をもたらし、また屋根の小屋組から洩れるあらたな空間は、過去と現在を対比し、あたらしい生活に、ささやかな余白をもたらす。 構造を変更したり、大きな手を加えなくとも、材料の選定を丁寧に行い、施工方法も工夫することで、 住み手のライフスタイルに合った空間をデザインできることを実感できたプロジェクトであり、 これから、じっくりと暮らしながら家が育っていくことを見守っていきたい。
キッチン壁/「アマレッティ」AMR-001
浴室壁/「クロジョーロ」MRZ-F7020
浴室床/「シクラスⅡ」SIC-R2070
古い木造住宅の小屋組を四角く切り取って面として見せることによって、周囲にある白く反射するタイルの壁、黒い木板壁、ベージュの床などの一つひとつの面が、互いに独立した要素として組み合わさることを強調したインテリアが生まれている。一つひとつの素材がもたらす空間への影響を重視したデザインであるとともに、それらが全体として調和しているところが素晴らしく、金賞に選ばれた。(大西麻貴氏)
Floating Nest
百枝優建築設計事務所
設計 百枝優建築設計事務所 撮影 YASHIRO PHOTO OFFICE
ラヴィータ(生命の源)を使用した建築の再生と新陳代謝
築40年以上が経過した住宅の改修。建築の再生と新陳代謝を主題にし、共用部に「ラヴィータ」(生命の源)を使用した。まず躯体の長寿命化を図り耐震診断を行った。そして不要な床を抜いて断熱補強を施し、家族の個室を内包する環境装置=「巣」を柱梁に寄生するように浮かべた。この白く抽象的な塊の下に広がる共用部を、再利用品のキッチンや家具に調和する優しい色彩の「ラヴィータ」で仕上げた。上下の対比的な空間構成に即してパブリックな既存躯体を硬質なタイル、プライベートな「巣」の内部床をフローリングとした。外壁と「巣」の間の吹抜けは立体的なコモンであり、2階の「内縁側」からは家族の気配を感じることができる。
LDK床/「ラヴィータ」MSY-X9110
浴室・洗面室壁/「ラヴィータ」MSY-U9110
複雑な断面構成と上部からの光を巧みに取り入れる設計により、まるで巣に包まれるような安心感と居場所性を生み出している。床、壁、浴室に至るまで丁寧に選ばれたタイルは、空間全体の統一感と温もりを支える要となっている。硬質な素材でありながら、光と形態によって柔らかな印象をもたらす構成力は見事であり、住まいの原点に立ち返るような本質的な空間体験を提供する点が高く評価できる。(谷尻誠氏)
客間の住宅
株式会社HAGISO
設計 宮崎晃吉+村越勇人/株式会社HAGISO
撮影 (1〜3枚目) 堀越圭晋/エスエス (4枚目) 末吉祐太/株式会社HAGISO
耐久性と独自性を兼ね備えた柱保護タイル
この住宅は、ハウスメーカーが手掛けた型式住宅の全面改修である。既存の典型的な小割り平面を解体し、2階に広くて明るいワンルームのLDKを実現した。間仕切壁の解体により露出した2本の鉄骨柱を石膏ボードで被覆し、その周りを窯変釉のボーダータイルで巻いたことで、角面の欠け防止に配慮しつつ、従来目立たなかったトップライトの光が美しくタイルに反射されることになった。タイルの高さは目線で留めることで、柱と天井の一体感を生み出した。空間にとって厄介な存在になりそうな独立柱が、保護タイルによって一気に主役に置き換わった瞬間だった。
柱/「フォルスカ」FAR-006
キッチン壁/「ミステール」MYS-006
既存の間仕切りを取り払い、大きな土間のような一室空間へと改修するプロジェクトである。壁面を解体したことで露出した2本の鉄骨柱は、本来「消したい存在」になりそうだが、ボーダータイル「フォルスカ」を張ることで、むしろ柱が、ブラック&グレーでまとめられた空間の中でアクセントとなり、主役に躍り出ている。このタイルが、柱を保護する機能を担うと同時に、釉薬による色むらで人間味のあるリラックスした雰囲気を生み出している。また、このタイルが、トップライトからの光の存在を強調しているのも魅力的だ。キッチン壁面に張られたタイル「ミステール」も、柱周りのタイルと呼応している。(塩田健一氏)
風土の家
atelier SALAD
設計 atelier SALAD 照明計画 Filaments inc.
施工 DESIGN OFFICE SHIROYAMA 撮影 Kenta Hasegawa
文化と地域性の保存
漁村に建つ築90年の古民家に、料理人が移り住むことになった。かつては厨房でもあり、客人を迎える空間でもあった『玄関土間』の文化を再解釈し、タイルの連続性によって、外部から一続きの内部を設えた。また、私たちは地域の素材に着目する料理人の世界観に触発され、建築においても地域性を感じさせることができないかと考えた。阿久根漁港に積まれた、荒々しい銀色の水揚げ鋼製箱が印象的であったこと、アジやイワシなどの青魚が近海で獲れることから、シルバーの鋼製板で覆うことで、この先も永く保存されていく古民家の姿を構想した。地域の生業の延長にありながら、地域の未来を予感させる、現象のような建築を目指した。
玄関土間/「リトロバータ」LEP-U8330G
内床/「リトロバータ」LEP-U8230M
料理人が移り住む家として、地域に古くから残ってきた「玄関土間」という、厨房でもあり、客人を迎え入れる場所でもあった空間を再解釈し、現代的にデザインすることによって、地域の記憶を引き継ぎつつ未来へと繋いでいく場所を生み出している。この家の中で重要な居場所となるであろう玄関土間の床に、複数のタイルを使用することによって、内外の連続した美しい空間が生まれているところが魅力的であり、入賞作品として選ばれた。(大西麻貴氏)
HILLSIDE TERRACE33
上村建設株式会社一級建築士事務所・株式会社BAS建築設計
設計 上村建設株式会社一級建築士事務所 江西義照 株式会社BAS建築設計 牛島昌弥
撮影 ブリッツスタジオ 石井紀久
素材が空間を形づくる
地域のアイコンとなっていた石積の擁壁を持つ住宅の建て替えであることから、仕上材に自然石を多用することでイメージの継承が図られている。床材は機能性と防汚性を重視し、水廻りだけでなく食堂や廊下においてもタイルが用いられている。浴室では均質でニュートラルな質感を持つタイルと荒々しく動的な大島石(愛媛県産)が絶妙な対比を見せ、タイルは主張を抑えながらも確かな存在感で石の質量に呼応する。浴室からパティオへと連続する空間は、力強さと秩序を感じさせ、素材の応答関係によって内省的な空気感が醸成された。タイルはその機能性だけでなく異素材との対比により空間の質を決定づける主体としての役割を担っている。
浴室床/「モンティニャック」CTC-X7290F
ダイニングキッチン床/「イルヴェネチアーノ」FIA-X9460P
廊下床・洗面室壁床/「リトロバータ」LEP-X8230M
地域の象徴であった石積みの擁壁に着想を得て、自然石とタイルを巧みに組み合わせることで独自の空間を創出している。重厚な石の存在感と、タイルの持つ繊細な表情が響き合い、歴史的文脈と現代的感性が交錯する豊かな場を実現した点が評価できる。素材の対話によって地域性を継承しつつ、新しい風景を紡ぎ出す建築として高い意義を持つ。(谷尻誠氏)
一寿庵
株式会社 I.D.Works
設計・施工 株式会社I.D.Works 川端正人 石井良子
タイルの衝立
一人住まいのコンパクトな住宅で、車庫・中庭を含め、メインルームから全ての場所を見渡せる間取りとしている。タイルをあしらった一枚の壁の向こう側には、脱衣所・トイレ・洗面カウンターを設け、メインルームから見えない造りとし、タイルという素材の実用性と意匠性を両立させた。
空間の中に、たとえ1箇所であってもタイルの壁を取り入れると、空間全体が途端に生き生きとしたものになることがある。本提案も、その非常に良い一例であると言える。レンガ調の土のテクスチュアを感じる壁が、間仕切り壁として使われているのだが、木や畳、石など自然の素材を使った全体のインテリアの中に、自然に馴染みつつ存在感のある壁が生み出されているところから、入賞作品として選ばれた。(大西麻貴氏)
HAQU
積水ハウス株式会社
風格を纏う車寄せ
市内有数の高級住宅地に相応しい、車寄せを備えたマンションです。古くから城下町として栄えた地に「クラントル」の燻しの風合いが調和し、物件に高級感と風格を与えます。
「クラントル」を全面に纏うことで、素材の質感と光の移ろいを建築の表情として際立たせた住宅である。外壁は時間や天候によって陰影を変え、街に静謐でありながら力強い存在感を示す。単なる装飾ではなく、タイルそのものが空間体験を形づくる点に特筆性がある。重厚さと繊細さを併せ持つ外観は、高級住宅としての品格を宿しつつ、現代的な感性と素材の可能性を見事に引き出している。(谷尻誠氏)
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