2025年9月、ボローニャで開催された CERSAIE 2025(チェルサイエ)。今回もまた、世界のタイルトレンドが集まるこの会場から、次の時代を予感させる明確なメッセージが発信されました。会場を訪れてまず印象的だったのは、色彩の変化です。ここ数年続いていた暖色系の流れを引き継ぎながらも、今回はそれをさらにやわらかく穏やかに昇華したような色使いが目立ちました。特に多く見られたのは、テラコッタ、セージグリーン、サハラベージュの組み合わせで、土や草木、陽にあたためられた石を思わせる、自然由来のやさしく深みのある色調でした。海外の一部では、このような傾向を “Tuscan Dusk(トスカーナの黄昏)” と表現する動きも見られます。それは単なる流行色ではありません。パンデミック以降に変化した価値観を映し出す、新しい空間の方向性ともいえるでしょう。近年のインテリアは、グレーやホワイトなどの無彩色を基調とした、クールで研ぎ澄まされた表現が主流でした。これらは現代的な美しさがある一方、どこか無機質で少し距離を感じさせる側面もありました。デジタル環境の中で過ごす時間が長くなり、常に雑多な視覚情報に囲まれる日常が当たり前になった今、私たちはむしろ、手ざわりのある素材や自然の気配など空間に宿るぬくもりを求めるようになっています。
Tuscan Dusk(タスカンダスク)は、まさにそうした感覚に寄り添う色彩です。イタリア・トスカーナの黄昏── 太陽がゆっくりと傾き、大地に熱が残る夕刻。空はオレンジからローズ、やがてやわらかな紫へと移ろい、建築も風景も、すべてが金色を帯びて見える時間。その穏やかで豊かな色の重なりが、2026年のインテリアに新しい空気をもたらしています。
イタリア・トスカーナの田園地帯の夕暮れを思わせる色合い
2026年のカラートレンド──大地へと回帰する色彩
2026年に注目されるのは、テラコッタ、サハラベージュ、セージグリーン、ダスティブルーといった、自然を想起する色です。土、砂、樹木、石、粘土といった、地表に存在する素材から導かれたこれらの色は、空間に落ち着きと奥行きをもたらします。インテリア業界においても、サンド、クレイ、フォレスト、コーヒーブラウンといった色調が注目されています。興味深いのは、これらの色が単独で主張するのではなく、互いにやわらかく響き合うことで、豊かな表情を生み出している点です。たとえば、テラコッタの床に、セージグリーンの家具、サハラベージュの壁といったように、このような組み合わせには自然界に見られるような有機的な調和があり、空間全体に心地よい一体感をもたらします。この流れの中で重要なのは、色だけでなく質感もあわせて考えることです。リネンやウールといったやわらかなファブリック素材、天然木、ざらりとした石、焼き物の素朴な質感。こうしたテクスチュアとTuscan Dusk(タスカンダスク)の色彩の組み合わせが、視覚だけでなく触覚にも心地よさを与える空間を創ります。特に相性が良いのは、リビングルームやダイニング、ベッドルームといった日常の中で最も長く過ごす場所です。くつろぎや安心感、静かな高揚感が求められる空間において、これらの色は本来の魅力を発揮します。
2026年の色をめぐる動きとしては、PANTONE®︎が史上初めてホワイト系 “Cloud Dancer(クラウドダンサー)” を選出し、日本流行色協会(JAFCA)は “Heartfelt Pink(ハートフェルト・ピンク)” を発表しました。コラムvol.34参照
一見すると、ホワイト、ライトピンク、そしてTuscan Dusk(タスカンダスク)の色彩はそれぞれ異なる方向を向いているようにも感じられます。しかしその背景にある価値観には、明確な共通点があります。それは、静けさを求めること。やさしさを取り戻すこと。そして、感情や素材感を大切にしながら、人が心地よくいられる空間を見つめ直すことです。白は光を受けとめる余白として、ライトピンクは気持ちに寄り添うぬくもりとして、Tuscan Dusk(タスカンダスク)は大地とつながる安心感として機能します。いずれの色も、これからの空間が単なる“見た目の美しさ”だけではなく、気分や感覚までも整える場として計画される必要性を示唆しているように思えます。
イタリアの土地を旅する「センシコローレ」と「ルミシチリア」
今回のコラムで取り上げる2つの新商品には、どちらもイタリアの土地を感じさせる魅力があります。
そのひとつが、Matteo Thun & Partnersによってデザインされた「センシコローレ」です。「センシコローレ」は、イタリアという土地の素材・光・色彩を通じて、そのエッセンスを探求することで生まれました。トスカーナの夕暮れ、リグーリアの海、マルケの畑── 各地の情景を色として綴った、旅するようなコレクションです。
センシコローレ / Sensi Colore NEW
「センシコローレ」は、BIANCO、TORTORA、ROSA、MIELE、SALVIA、BOSCO、CERULEOなど自然から切り取られた15色で構成されています。このコレクションの魅力は、単に色数が多いことではなく、ひとつひとつの色にその土地のニュアンスが感じられることです。南から北へ、海から山へと旅するように色が移ろい、壁面に配置したときには、まるで風景の断片を空間に写し取ったような豊かな表情が生まれます。まさにTuscan Dusk(タスカンダスク)の色彩をタイルに落とし込んだシリーズといえるでしょう。小さなフォーマットならではのリズム感も相まって、空間に繊細な陰影と、どこか手仕事の余韻を感じさせます。
海外施工例 FGS-D1060
イタリア・マルケ州の畑(カラー1060の風景)
SCALA DEI TURCHI
AGRIGENTO, SICILIA
TERME DI VULCANO
ISOLE EOLIE, SICILIA
FIUME TAGLIAMENTO
FRIULI VENEZIA GIULIA
MATERA
BASILICATA
BARI SARDO
NUORO, SARDEGNA
CAVA DI BAUXITE
OTRANTO, PUGLIA
CAMPI ARATI
MARCHE
TRAMONTO
IN VAL D’ORCIA
GROSSETO, TOSCANA
CAMPO IMPERATORE
L’AQUILA, ABRUZZO
ULIVI SECOLARI
CALABRIA
APPENNINO
TOSCO-EMILIANO
TOSCANA E EMILIA ROMAGNA
DOLOMITI
TRENTINO ALTO ADIGE
LAGO DI COMO
COMO, LOMBARDIA
LAGO D’ORTA
NOVARA, PIEMONTE
PORTOFINO
GENOVA, LIGURIA
もうひとつ注目したいのが、2026年の新商品 「ルミシチリア」です。
ルミシチリア / Lumisicilia NEW
「ルミシチリア」は、シチリアという土地へのオマージュとして考案されたコレクションです。ルミ(Lumi)=光、シチリア(Sicilia)の名の通り、地中海の風景を輝かせてきた数多の文明の記憶を、タイルというかたちで表現しています。シチリア島は古代から多くの文明が交差してきた場所で、ギリシャ、アラブ、ノルマン、スペイン──それぞれの時代が残した痕跡は、建築や素材の中に層のように刻まれ、独特の景観を生み出してきました。「ルミシチリア」は、そうした土地の記憶と優美な大理石模様を重ね合わせることで、非常に印象的な模様とテクスチュアを実現しています。単なる石模様の再現にとどまらず、時間の積層や風化のニュアンスまでも感じさせる表情は、空間に深い奥行きをもたらします。「ルミシチリア」は、もはや背景としての仕上げ材にとどまりません。アクセントウォールや象徴的な空間のためにデザインされた個性豊かなサーフェイスは、タイルを単なる背景要素から、空間を構成するファニシングアイテムへと昇華させています。サイズは 8mm厚の1200角・1200×600角・600角に加え、6mm厚の2700×1200角を揃えています。また、6mm厚の2700×1200角は、革新的な水性釉薬技術を用いて製造され、環境への配慮と高いデザイン性を見事に両立させています。(40%以上のリサイクル素材を使用し、LEEDやBREEAMといった国際的な環境認証に準拠)
Tuscan Dusk(タスカンダスク)の観点から捉えると、「ルミシチリア」は、その色彩の“もうひとつの側面”とも言える存在です。空間に取り入れることで、自然のぬくもりに歴史の奥行きや素材の力強さが重なり、より豊かな表情を生み出します。
カラー6510|Arabescato Grigio
海外施工例 FI-6MM2712-6510
Arabescato Grigio
Mediterranean Sea, Sicily
カラー6520|Breccia Blu
海外施工例 FI-6MM2712-6520
Breccia Blu
Cefalù, Rock cliffs, Sicily
カラー6530|Ceppo Aragona
海外施工例 FIA-AE6530
Ceppo Aragona
Reef, Nort-west Coast of Sicily
「ルミシチリア」を象徴するカラー6530(Ceppo Aragona)は、14〜15世紀のシチリアに豊かな文化と芸術の発展をもたらしたアラゴン王朝に由来しています。アラゴン王朝の時代、シチリアの都市にはゴシック・カタルーニャ様式の建築や精緻な石の装飾、そして洗練された建築技術がもたらされました。その面影は現在もパレルモ、カターニア、ノートの街並みに息づいています。
パレルモのシチリア州立美術館「Palazzo Abatellis(パラッツォ・アバテッリス)」
カラー6540|Breccia Phoenix
海外施工例 FI-6MM2712-6540
Breccia Phoenix
Punta Milocca, Volcanic Cliffs, Sicily
このコレクションが語るのは、陽光きらめく海辺、火山の大地、芳香を湛えた植生、そして豊かな文化の記憶を抱くシチリアの風景です。それは単なる色や模様の表現にとどまらず、土地に積み重ねられた時間や、人々の営みまでも映し出しています。色彩、芸術、そして人──それらが織りなすシチリアという場所の記憶を、タイルというかたちで写し取った、ひとつの賛歌と言えるでしょう。
2つのコレクションが示す、これからの空間
「センシコローレ」と「ルミシチリア」は、表現のアプローチこそ異なりますが、共通しているのは “場所の記憶を空間に取り入れる” という点です。「センシコローレ」は、色を通じて風景を語ります。一方「ルミシチリア」は、質感や模様の奥に、その土地固有の時間の層を感じさせます。いずれもただ美しいだけのタイルではなく、特別な場所の風景や文化、光や空気を想起させることで、空間に物語を与えてくれる存在です。均質で、どこにいても似たように見える空間が増える中で求められるのは、こうした固有性なのかもしれません。その場所にしかない空気、その人らしい感覚、その空間だけの記憶。タイルは、そうしたものを静かに語り、長くとどめてくれる素材です。