テラコッタは、ブームから次のフェーズへ
テラコッタやテラコッタカラーは、2023年から2024年にかけて大きな注目を集めたインテリア要素のひとつです。素焼きの風合いやハンドメイド感、温かみのある色調──こうした要素がコロナ禍を経て、ぬくもりを感じられる素材として再評価され多くの空間で取り入れられてきました。一方で、2025年9月のCERSAIE(チェルサイエ)の会場を見渡すとその勢いはやや落ち着き、表現の方向性が変わり始めていることが感じられます。テラコッタ特有の土物らしさを前面に押し出す2024年までの使い方から、現代の暮らしに馴染む洗練されたテラコッタへと、ブームを経て次のフェーズへ変化している印象です。
イタリア・フィレンツェの街並み
テラコッタやレンガは、地中海の建築やイタリアの文化をはじめ、長い建築史の中で永く親しまれてきた素材です。たとえば、フィレンツェやシエナの歴史的な街並みでは、屋根瓦や床、広場に至るまで、焼成された土の赤褐色が街全体を形づくっています。それは選ばれた色ではなく、そこにある土を焼き、使い続けてきた結果として自然に形づくられた色でした。時間とともに色は深まり、摩耗し、街の記憶として積み重なっていく──テラコッタやレンガは、完成した瞬間よりも時を刻む中で美しさを増していく素材であることがこれらの街並みから読み取れます。テラコッタやレンガは、大理石のように磨いて異なる表情にすることはできません。だからこそ素材の性質そのものと向き合う必要があり、その制約こそが多くの建築家を惹きつけてきました。
ルイス・カーンが示した、近代建築における思想
こうしたテラコッタやレンガの本質を、近代建築の中で明確に示した建築家のひとりが、ルイス・カーン(Louis Isadore Kahn|1901-1974)です。彼の有名な言葉「レンガは何になりたいのか」という問いは、素材を単なる建材としてではなく、建築そのものを成立させるための根源的な要素として捉える姿勢を象徴しています。1962年に完成したインド経営大学アフマダーバード校では、その思想が明確に示されています。灼熱の地アフマダーバード(Ahmedabad)において、ルイス・カーンは地元の職人技術を活かし、レンガを幾何学的に積み上げることで、光と影が交錯する空間をつくり出しました。時間帯によって変わる光を受け、壁面は赤からオレンジ、褐色へと表情を変え、時間とともに移ろうことで空間に奥行きを与えています。
インド経営大学アフマダーバード校
Students of IIMA, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons
Students of IIMA, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons
現代へとつながるテラコッタの役割
フィレンツェやシエナの街並み、そしてルイス・カーンの建築に共通しているのは、テラコッタやレンガが空間全体を支える背景として使われてきたという点です。近代建築以降も、テラコッタやレンガは「装飾」ではなく「構成要素」として扱われてきました。壁や床を主張させるためではなく空間全体のトーンを整えるために用いるというその考え方は、いまのインテリアトレンドともつながります。テラコッタが再び注目されている理由は、その“引き算の美しさ”にあるのかもしれません。個性を主張する素材から空間の居心地を整える存在へ──幾度かのブームを経た今、テラコッタはようやく建築の文脈に立ち返って活用され始めているように感じられます。
ニュアンスで取り入れるテラコッタ─「センシテッレ」
現代のインテリアに取り入れるテラコッタとしてふさわしいシリーズが2025年9月の新商品「センシテッレ」です。
センシテッレ / Sensi Terre NEW
イタリアの建築家・デザイナーであるマッテオ・トゥーン(Matteo Thun|1952- )が手がけた「センシテッレ」は、土のニュアンスや焼成感をしっかりと感じさせながらも、過度にラフになりすぎない洗練された表情が特徴です。色調も抑えられており、空間に自然に溶け込むようデザインされています。いわゆる「テラコッタらしさ」を強く主張するのではなく、今の暮らしに寄り添う素材としてのバランスが丁寧に整えられています。また、最新技術によって職人が手仕事で仕上げたような質感を再現している点も見逃せません。工業製品でありながら、機械的な冷たさを感じさせない表情は、このシリーズならではの魅力です。
海外施工例 壁床:カラー6720 間仕切壁下部:カラ-6750 ダイニングテーブル:カラー6730 リビングテーブル:カラ-6820G
海外施工例 床:カラー6760 壁:カラ-6720・6760
洗面:カラー6820G
海外施工例 床:カラー6730 ニッチ:FGS-J6750
Matteo Thun / マッテオ・トゥーン(1952- )
イタリアデザイン界の巨匠 マッテオ・トゥーンは、建築・インテリア・プロダクトデザインの境界を超えて活躍する国際的に著名なデザイナーです。彼の作品は単なる造形美に留まらず、「時代を超越したシンプルさ」と「持続可能性」を追求する独自の哲学によって貫かれています。
「センシテッレ」は、イタリアの大地から着想を得た温かみのある6色のカラーで展開されています。また、豊富なサイズバリエーションもこのシリーズの大きな魅力です。600角、600×300角、300×150角という3つの形状に加え、近年人気の六角形(224×194mm)を揃えています。“面”として使うのではなく“ニュアンス”として取り入れるテラコッタとして、2026年、流行の兆しを見せるアイテムのひとつです。
海外施工例 FGS-Z6710・Z6730・Z6740
ADA 2024 “Finishes” & “Sustainability” 受賞商品
また、「センシテッレ」は、建築スタジオ・通信機関・ジャーナリストや写真家など各界の国際的第一人者が、審査員を務める世界的なアワード「Archiproducts Design Awards 2024」のFinishes(仕上げ材)部門・Sustainability(サステナビリティ)部門に選ばれた商品です。住宅および建築プロジェクトにおいて、実用的であるばかりでなく、ユニークなコンセプトと創造性、技術力、研究成果における卓越した特徴を備えた作品に与えられています。
マッテオ・トゥーンが「センシテッレ|Sensi Terre」に込めた思想は「Sensi(感覚)」と「Terre(大地)」という名称そのものに表れています。単に見た目の美しさだけでなく、触れたときの質感、空間の温度感、時間とともに変化する光の表情、すべての感覚を通して「大地」を感じさせる、いまの時代にふさわしいマテリアルといえるでしょう。