Tile Column
たいるこるん
Vol.07 「マルコ -イタリア人にみるタイル-
  

名古屋モザイク工業には、「もうマルコと呼ばないでくれ」というマルコがいる(本名は別)。怒られるかもしれないが、マトリョーシカのようなかたちをした小柄のおじさんで、とても愛嬌のある出で立ちのお方だ。(けして悪口を言っているのではない。)当社で彼のポジションはバイヤーで、Made in Italyのタイルのほとんどを、マルコ達が仕入れしている。
 

 

デスクの上には青色のステーショナリーが並ぶこだわり屋であり、いつもオフィス内で一番遅くまで働く働き屋であり、国際展示会に行けばメーカーのマネージャーやエージェンシー達から「マルコ!誕生日おめでとう!!」と声がかかる皆の友人でもある。
また、マルコはグルメで、現地人同様食への情熱がある。私たちが普段経験することのできない本場のパスタやシーフード、スイーツまで、食べきれないほどの美食を知っている。だから、名古屋モザイク工業の社員全員が彼とイタリア出張することを楽しみにしていると思う。現地のイロハを知っている人と訪れる旅は、3倍も4倍も価値があるのだ。
 

 マルコは20代に入っていっときを、イタリアはシエナで暮らした。シエナは最寄の大都市フィレンツェから約70キロ離れた内陸に位置し、小高い丘の上の大聖堂を中心に赤茶のレンガ壁と赤茶の瓦屋根がみっちりと並ぶ、大変ドラマチックな街だ。そこから様々な都市を旅し、人に触れて過ごした。
帰国後間もなく名古屋モザイク工業に入社し、初めてイタリアへ仕事に出かけたのはその翌年。当時のイタリアタイルは、柄と無地の色が合わなかったりサイズや品質が安定しなかったりと、悩みが尽きない製品ばかりであった。

シエナの街

当時のカタログ

 
一方で、昔から人と違う個性を求める傾向が強いイタリアでは、顧客に合わせ必然的にメーカーもデザインと技術・設備をますます磨くこととなり、当時からタイルの世界市場でも突出していた。
 
 
そんなクオリティの不安定さと、デザインの高さが隣あわせの産業を営むイタリア人を、マルコは、愛をもって「無駄の多い、人間らしい人々。」という。どういう意味だろう。
 
 
 

そもそも、なぜイタリアでタイル産業が盛んなのか?その背景をのぞいてみる。  
 
 
 

地中海へぶらさがる、あのロングブーツを想像してみてほしい。イタリアには"足の付け根"から"つま先"までを貫く長いアペニン山脈がある。一番上のミラノからは、”ひざ裏”のサン・マリノを結ぶ太い交通が山脈に添うように通っていて、そのなかほどに、サッスオーロという地がある。この一帯はフェラーリ(1940~)やマセラティ(1949~)が誕生した土地であるだけでなく、あらゆる産業が集結している。このサッスオーロこそが、タイル産業が育まれ、今なお世界をけん引している場所だ。第二次世界大戦後の復興に伴い農業や畜産業主が近隣から豊富にとれる赤土を使ってタイルをつくり出したのが始まりだった。
 

サッスオーロ近辺の風景

さて、もともとタイルは二度焼く必要があり、土を固めて乾燥後、一度焼いて(焼くことを”クックする”という)、焼きあがったもの(”ビスケット”という)に釉薬をかけて再度焼く、合計24時間程の工程を経ていた。しかし、70年代になると一つの焼成で完成できる設備が生まれる。これにより生産量の拡大、労働力の削減を叶え、みるみる産業は拡大。後の1983年にはお隣の街ボローニャ(イタリア7番目に人口の多い街)でイタリア陶磁器協会によるタイル建材国際見本市「チェルサイエ」がスタートし、新興国のメーカーやジャーナリストを積極的に誘致することで、確固たる地位を築いたというわけだ。
 
日本のタイルもとい、建設業の発展のきっかけは関東大震災。イタリアは第二次世界大戦。いつでも諸国の歴史には大きな試練が良くも悪くも関わっている。
 
もう一つ、同国らしい特徴がこの発展に拍車をかけた。先ほども述べた70年代には既に生産効率を大幅に上げる機械が開発されたと書いたが、その機械は今日、ロボットになっている。タイル産業に限らず、マンパワー以外の動力導入にイタリアは積極的だ。そしてそれに引っ張られるようにしてスペインでも同様に、メーカーを訪れると生産ラインにほとんど人がいないことに驚く。

ほとんど人のいない生産ライン。通路にはロボットが通る道筋が線引きされている。

ストック

ハンドメイドデザインや目視が必要な最終の品質検査、色を並べるシート貼り作業を除けば、タイルは機械やロボットによって形成され、焼かれ、運ばれ、チェックされている。さらに、梱包、在庫管理、倉庫内でのピッキング・出荷なども含めそのほとんどはロボットとコンピューター制御で管理している。これにより、1日の生産量の規模は、日本では太刀打ちできないほどのスケールになった。人が働く必要のあるものと、そうでないものをはっきりと分けることで、人は、クリエイティブなシーンに一層尽力できる。

一度焼成した「ビスケット」に手作業で絵付けする女性。機械にはつくれない味わいを持つ希少なタイルを作っている

人間にしかできない色並べなどの作業を女性ならではの感性で仕上げていく

限られた人口と土地から生まれる、世界の最高峰のプロダクト達は、「Made in Italy」と刻印され、彼らの高い誇りとなっている。「この刻印は、製造プロセスの中でも最も大切な作業の一つ」と彼らは言う。
人間らしく創造的であること、美しいものを愛で、家族や恋人との暮らしを豊かにすることが重視されており、そのための産業と誇りが今をかたちづくる。

 

ミラノの駅の壁画モザイク

 
 

マルコの言う「人間らしい」とはこういうことだろうか。
 
つづく
 

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タイルのコラム「たいるこるん」 BACK NUMBERS


Vol.01
「タイルがイタリアから飛んで来た」2017.1


Vol.02
「タイルの秘境ベトナム」2017.3
 


Vol.03
「コルビジェのカラーパレット」2017.4
 


Vol.04
「ジーンズを超えて」2017.5
 


Vol.05
「麻の葉と日本のタイル」2017.8


Vol.06
「中国から学ぶこと」2017.12


Vol.07
「マルコ -イタリア人にみるタイル-」2018.6


Vol.08
「マルコ -食い倒れた先にタイル-」2018.8