Tile Column
たいるこるん
Vol.06 「中国から学ぶこと
  

 
 数年前、都内で生き生きと目を輝かせた女性に出会った。若干30~40代若い二人組で、とても丁寧な日本語や英語を話し、凛としていた。中国のほぼ真ん中である四川省・成都からやってきた彼女たちは、2012年にタイルブランドメーカーを立ち上げたポンさんと、その輸出事業部のオウさん。度々仕事で日本を訪れるので、東京は手慣れたものだった。
ちなみに、成都は麻婆豆腐発祥の巨大な街だ。
 
彼女らの得意分野はガラスタイルや、大理石モザイク。大理石モザイクといっても、ウォータージェットで繊細にカットした、どちらかというと象嵌細工に近い、アート性の高いものだ。優雅なラインを描く天然石を、色とりどりに組み合わせた幾何学模様はとても美しい。クラシックモダンの、、、インテリアデザイナー、ケリー・ホッペンの世界を思わせる、そんな壁床材だ。
 

 
 

 まだ立上げから5年というこの新しいタイルブランドは、彼女たちの好奇心と、描き起こしたデザインを製品化できる実力があるからこそ成り立っている。
 ヨーロッパやアメリカへ頻繁に足を運んで市場調査をし、アイディアを持ち帰ってはデザインを描き起こす作業を繰り返すうちに、いつしか同国他社と一線を画した製品がラインアップされるようになった。旅する先々では、タイルを見て回るだけでなく、ファッション街や美術館にも訪れ、人とふれあい、自らのインスピレーションや勘を磨いてきた。
 
このウォータージェットで石をカットする技術は、もともと彼女が働いていたある企業でポンさん自身が学んだ技術だ。その企業は、私も一度中国を訪れた時に見学させてもらったことがある。中国内はもちろん欧米のデザイナーから発注されるデザインを製品化している会社で、どんなに緻密なカットでも、美しく切り抜き、人の手で並べてゆく。ショップのロゴや、ちょっとしたグラフィックなら、一晩でデザインが上がってくる驚異の対応力だ。後にポンさんはこの企業で得た知識やスキルを活かし、若くして自らタイル会社を立ち上げた。
 

 

ポンさん。サンフランシスコにて

 

 約1年前、ポンさんが提案してきてくれたモザイクタイルがあった。それは石や、ガラス、樹脂、タイルなどの異素材を混ぜ合わせたもので、ガラスはテッセラ面状のもの、自然な波模様を描いたもの、また、石は天然のテクスチュアをそのまま露わにしたもの、釉薬を焼き付けたもの、樹脂は彫刻を施したものというように、幅広い表情をミックスしている。さらにこの天然石たちは、緑、淡いピンク、褐色、茶、灰色、黒、青など色柄が豊富で、同系色のガラスやタイルと混ぜると一段と深みを増す。
 
「日本ではガラスだけだったり、石だけを使ったモザイクタイルの市場が、縮小してきているため、異なる素材を混ぜた商品開発に取り組む必要がありました。」 
日本の市場を見て、今日商社は「人気のもの」よりも「個性」を求める傾向が強くなったと、ポンさんとオウさんはいう。さまざまな色や形状を良い意味で大胆に使うようになり、若く、女性的なデザインが求められていると分析したのだった。
 
 
中国の一番の強みは、この色とりどりの豊かな石資源だと私は思う。
 
「採掘される石の色はいつも同ではないし、どの石にも釉薬を塗布できるわけではありません。また、釉薬がのると、さらに異なるイメージが現れます。それがコントロールしきれない最も難しい一面であり、この味わいを出す要にもなりました。」
 
まず、天然石に落ちない色をきちんとのせて発色させるには、当然特殊な技術と経験、失敗とテストの繰り返しが必須であるし、釉薬は、ガラスや石、樹脂など、素材自体の密度の違いによって浸透率が異なる。使う釉薬も手作業で吹き付けるため機械のように均等にはならないのだ。と同時に、このようにして生まれるモザイクタイルの”不均等さ”は本物で美しい
 

1.石をカットする

2.洗浄する

3.手作業で並べる

4.発色を安定させるため特殊な下塗りをした後、釉薬を吹き付ける。

ちょっと話がそれるが
”不均等さ”は、今こそ日本でも評価が高いものの、本当に良いとされるのには塩梅がとても難しいのだと思う。全てを天然素材や手作業でつくるには、コストが跳ね上がり生産力も限られるため、本物の写真を撮ってプリントした人工のエイジング、人工の焼き色むらに頼るほかない。が、どうしてもチープさが一緒に残りがちだ。
イタリアだって、石調タイルも木調タイルもインクジェットプリントの技術で先陣を切るが、つい数年前までその出来上がりはどこかわざとらしかった。でもそれは国際見本市・チェルサイエを重ねるたび確実に本物へ近づき、今や手触りまでもがそっくりになった。
 
コピー印刷した化粧材があふれる現代のなかでも、ポンさんが今回の新作で素材の良さと手作業をうまくミックスして美しい”不均等さ”の表現をかなえたのは、彼女たちが常日頃審美眼や感覚を磨いているからこそだ。
 
この中国やイタリアの研究心や追求心に対して、日本は負けていない!と、言えるだろうか。

ものすごい数のサンプルバリエーションが届く

不採用になってしまった柄。これだけで随分雰囲気が変わる。

一次審査の結果が一旦四川へ戻り、二次サンプルが届く

各ショールームの提案最終段階

 彼女たちが何十にも及ぶ色バリエーションを提案してくれた後、私たちは輸入課と全国ショールームスタッフで打ち合わせを重ね、素材の混ぜ合わせの比率や、模様の抜粋、色の選抜など細かな調整をしていく。結局、絞り切れずに12色もの大展開になってしまった。
そして、そのタイルに「PAVE MOSAIC(パヴェモザイク)」と名付けた。PAVEとは、敷き詰めるという意味で、”宝石を敷き詰めたパヴェジュエリーのように美しいタイル”とした。この新作が生まれるまでの背景は、こんな感じだった。ぜひ使ってみてネ。

 

 
 オウさんがくれたアメリカ出張レポートには、流行の色や質感など、見て吸収して来たものが沢山書き込まれていたが、最後に「FacebookやGoogle、Appleの本社も見学してきましたよ!」とあった。シリコンバレーを総なめだ。
日本のタイル会社で、世界を牽引するIT企業へ見学に行った会社があっただろうか。畑を超えて、彼女たちには学びたいものが沢山あるのだ。
 
また麻婆豆腐、食べに行きたいなぁ。
 

左:ポンさん 右:オウさん

 
たいるこるん、
お次は名古屋モザイク工業のバイヤー、マルコについて語る。

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タイルのコラム「たいるこるん」 BACK NUMBERS


Vol.01
「タイルがイタリアから飛んで来た」2017.1


Vol.02
「タイルの秘境ベトナム」2017.3
 


Vol.03
「コルビジェのカラーパレット」2017.4
 


Vol.04
「ジーンズを超えて」2017.5
 


Vol.05
「麻の葉と日本のタイル」2017.8


Vol.06
「中国から学ぶこと」2017.12