Tile Column
たいるこるん
Vol.05 「麻の葉と日本のタイル
 
 

 「コラベル」に並び、同じ日本製のタイルで人気なのが、「麻の葉」タイル。昔、家庭科の授業でチクチクと布巾を縫ったのがこの模様との出会いだったが、これは、いわずと知れた江戸小紋のうちの一つ、日本人にとって馴染みの柄だ。
一つ一つ、輝く小さな三角形のタイルピース。夏の暑い暑い岐阜県・多治見の、青い空の下ノウゼンカズラが見事に垂れ下がる「麻の葉」の製造元を訪ねた。
 

「麻の葉」の製造元入口が面する通り


 
会うたび優しい笑顔の社長が、どこか懐かしさを感じる応接間へ迎え入れてくれ、冷たいグラスでお茶をいただいた。
その事務所兼応接間の後ろには、全長35mもある重厚な焼き窯の入った工場がある。
 

 
 
 
窯の周りには、ところ狭しと白いさや(タイルを焼く時の受皿)が積み上げられ、選別を終えたタイルを数名の専門スタッフが貼り板(木や鉄板でできたパズルの型枠のような板)の上に並べている。水色はここ、オレンジはここ。タイルを図面の通り並べたら、上から専用の糊を乗せた紙を貼る。こうして1シートが完成するのだ。
 

人の目と手作業で選別されたタイルを貼り板へ並べていく


 
デザイン図は、名古屋モザイク工業の社内デザイナーや全国の営業から届けられ、全23色を使って指示の通り並べていくが、これがとても難しい。社長は、「複雑で難しい柄はうちの慣れた人間にしか頼めない」と信頼をおく。
この「麻の葉」タイルは、目地が描く伝統模様が引き立つ単色もさながら、柄・パターンの種類は無限で、思いのまま花を散らせたり、山や雪、川、幾何学模様などを表現できるのが楽しい。
 

青色を基調とした麻の葉パターン


 
タイルというと”規則正しく並んだグリッド”のイメージが強いが、この「麻の葉」はヨーロッパの壁紙のように大胆な柄を楽しむ感覚で、出来上がりには思わずため息が出てしまうほど。さらに、これが海外へ輸出されると、それは古典柄の概念を超えて現代アートのような柄をつくり出すし、真鍮製ダブルハンドルのシンクとしっくりマッチしたりするから不思議だ。
 

オーストラリアの公共施設施工現場

 

オーストラリアの一般住宅施工現場

 
 

周囲は近くの山から鳥の声や、空高く横切る飛行機の小さな音のみで、ひんやりとしたタイルが整然と並べられていくのが、なんとものどかで美しい光景に映る。
 

笠原の町並み


 
さて、今回この「麻の葉」をテーマにしたのは、その背景にある、国産タイルの歴史や産地の様子を少しご紹介したかったからだ。
 
 飛騨高山や郡上のような岐阜らしい古民家の並ぶこの多治見のなかでも、笠原という地にはそこかしこに窯がある。車を走らせればどの家にもタイルを入れる黄や青の箱が山積みになっているのを見かけるだろう。しかも、あちこちの社名が印字された箱は長年のうちに混ざりに混ざってごちゃごちゃだ。地元の馴染みの空気というか、同じ稼業を営むご近所の繋がりというか、そういうものを見ると何かあったかい感じがするのだ。
 
 そもそも、なぜ、ここの地にタイル産業が広まったかというと、きっかけは1923年・関東大震災。復興事業で元々美濃焼の茶碗産業が根付いていたこの地に、同じ”焼き物”のタイルの発注が山のように入ったからだ。当時、タイルは業界でも目新しい建材であり、多治見では生産を立ち上げたばかり。「タイル」という名前も、つい震災の前年に生まれた。震災によるいちじるしい倒壊や火災の末、復興の新都会には「耐震不燃建築」が求められ、大正時代に主流だったレンガ造りの建物は、鉄筋鉄骨造へ大々的に切り替えられる。その内外装材として、タイルはぴったりだった。現在も多治見のタイルは日本一のシェアを持つ。

当時の名古屋モザイク工業


 
 時折、「タイルは焼き物なのです。窯へ見に行きましょう」と、お客様をメーカーさんへ案内すると、「えっ本当に焼いているのですか」とびっくりされる事も少なくない。
密閉された建物でも、湿度や気温をコンピュータ制御された環境でもない、ごく普通の場所に、窯はあり、成形された白っぽい土は、ゆっくり、ゆっくりと窯の中を通って数日で美しい色のタイルに焼きあがる。そのため同じ製品でも焼くたびに色が違うし、形も歪んだりする。
 
まるで生き物だ。

窯に入るまえの麻の葉。既に釉薬がかかっているので、焼きあがると鮮やかな色に変身する。


 
この全く言うことを聞かない生き物を、焼成時間や温度を熟練の勘で仕上げるのだが、製品にならなかったり、色が出なかったりすることもある。そうして出来上がったタイルは、子供を送り出す気持ちで出荷されているのだ。
いつも何気なく見かけるタイルは、そんな歴史と背景を持ち、手塩にかけて育てられたものなのだと、頭の隅で思い出していただけたら嬉しい。
 
 
 
たいるこるんは
お次は中国のモザイクタイルを鑑賞する。
 
 

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タイルのコラム「たいるこるん」 BACK NUMBERS


Vol.01
「タイルがイタリアから飛んで来た」2017.1


Vol.02
「タイルの秘境ベトナム」2017.3
 


Vol.03
「コルビジェのカラーパレット」2017.4
 


Vol.04
「ジーンズを超えて」2017.5
 


Vol.05
「麻の葉と日本のタイル」2017.8