Tile Column
たいるこるん
Vol.02 「タイルの秘境ベトナム

東南アジアはベトナム・ホーチミン。冬といえど最高気温は32度あたりで、年間を通して真夏の暑さ。ベトナムは、1858年からコーチシナ戦争から始まりフランス、日本や、アメリカに占領された後、1976年独立へと時代を運ぶが、今もなお、過去の国々の名残がただよう国だ。
太陽に照らされて、何種ものハーブやビタミンたっぷりのフルーツを食べて、女たちは皆美しく、瑞々しい緑や花に包まれて暮らしている。
 
 

 
今回ベトナムへ訪れたのは、このところ、“超・工業製品すぎる“タイルの魅力を再発掘するためだった。一言に「タイル」といっても、その種類は幅広い。「Sensi Marmi(センシマルミ)」 (Vol.01参照)のように、4000トンプレスで1日10000㎡も超・均等な品質がつくられる乾式タイルと、日本に馴染みある釉薬の色むらを愛でるような湿式タイルでは、全く性格が違うのだ。湿式は、粘土細工と同じで、色も形も1つとして同じものがない。そんな魅力が、私たちは大好きで、今後も日本に伝えていく役割を担っている。
 
 

 
ここベトナムのタイルは一際魅力的だ。セメントタイルといって、金型に大理石粉、水、着色顔料を混ぜたものを流し込んで、油圧プレスで一つひとつ成形したもの。そのため、厚さも大きさも、エッジのラインも不規則で色はぼやける。それは、前途の乾式タイルのニーズには程遠く、「都会的」や「最先端」、「正確さ」といった言葉から離れ、もっとゆったりとした暮らしが感じられる手作りの温かみだ。まさにベトナムの街を流れる空気にぴったり。
 
 
 

 
とはいえ、セメントタイルの起源は、実はフランスの焼き付け粘土タイル。19世紀半ばまで盛んに用いられた粘土タイルは、のちにセメントタイルへと進化し、フランスの伝統パターンの多くがこのプロセスから生まれた。そして19世紀末から20世紀初頭にかけて、フランス領土の拡大と共にベトナムを始め東南アジアでもつくられるようになったのだ。
また一方で、現在セメントタイル一大生産地として知られるはモロッコ。模様はより細かく複雑になり、形状や色数が生む混沌とした美しさが世界中の建築家やデザイナーを魅了している。
実はこのセメントタイルは、イタリア、メキシコ、キューバ、エジプト等、世界中に広まり、それぞれの国色が出たパターンが異なるため、旅をするほどに楽しい出会いがあるので、訪れたらぜひ足元や壁に目を向けてみてほしい。
 

 
このたった1種類のデザインを並べて生まれる独特の幾何学パターンの計算は、見れば見るほど複雑で、それをまた何種かレイヤードして生まれる空間は、見ていて飽きないほど。
スウェーデンのアコースティックセメントタイル会社・Marrakesch Designは、この伝統製法を時代に反映させた新しさを求め、同国の3人の建築家チームCKR(Claeson Koivisto Rune)デザインのタイル「DANDELION(たんぽぽ)」「CASA(家)」「STONE(石)」、またデザイナーMats Theseliusが手掛ける「GOOSE-EYE(がちょうの目)」などをプロデュースし、セメントタイルに新風を起こしている。この工場で製造しているのが、その「新世代セメントタイル」。色も柄もこれまでと全く異なるが味わいはそのままなところがいい。
 

スウェーデン・Marrakesch Design社の「DANDELION(たんぽぽ)」。綿毛をイメージしている

 
 
名古屋モザイク工業では、せわしい現代日本にもこの温もりを、値が張りがちなセメントタイルをもっと身近に供給したくて、この工場と協力し共同生産を計画している。さて、どんなデザインにしようか。
 

 
まず、形状は通常のタイル同様に幅があって、扇形、ランタン型、菱形、多角形などさまざまな種類から選ぶことができる。だいたい大きくても300㎝以内なので、日本でも使いやすいサイズだ。そして柄は、伝統を責めるか、いや、モダンを責めるか・・・
このメーカーのカタログには、目移りするほどの色や柄がそろう。出荷の多くがフランス向けであることから、欧州の嗜好を映した製品が多いのだ。モスク柄、トライバル柄、幾何学模様と、どれもどこかで見かけたような図形が主体だが、色の合わせや形状の細部にブラッシュアップされたセンスが光る。
 
さて、このセメントタイル、華やかさが目を引くのでレストランやホテル、ちょっとした公共スペースの色付けにうってつけだ。テラコッタと違って、水にも強い。
一方一緒に暮らすには上手な付き合い方が必要。もちろん住宅でも使用が可能だが、特に底冷えしやすい一戸建ての室内での使用はしっかりとした冬の防寒対策が必要になるだろう。しかしそれは欧州ではラグを楽しむ季節にもなる。本来防寒対策であり、床保護材であり、インテリア要素であるラグは、デザインも無限だ。今どきずいぶん安く手に入るものもあるし、高価で何代も引き継いで使われるラグもある。こういったものを活用して夏と冬の床を着せ替えるのも暮らしの楽しみの一つ。筆者としては、冬も気軽に裸足で歩けるよう、床暖房システムや断熱技術を組み合わせた、温かく快適に使えるセメントタイルが実現できたらいいなぁ・・・と思う。
 

ホーチミン市内のカフェ。お洒落でコーヒーもとてもおいしい


 

 
仕事の合間に、ちょっとコーヒーブレイクをしにカフェへ行くと、入った瞬間気持ちが明るくなるようなセメントタイルの柄が足元を彩る。いつか旅行した異国の空間をほんのり思い出しながら、くつろぐ木製のカウンターで新聞に目を通す。
 
多くの時間をキッチンで過ごす女性だったら、造作棚の背面に真っ白な流行りのサブウェイタイルを張るつもりだったけれど、ちょっとまって。心が澄むような淡いブルーが美しいセメントタイルを壁一面に張ってみては?
 
 
たいるこるんは
お次はあの世界の巨匠に出会う。
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タイルのコラム「たいるこるん」 BACK NUMBERS


Vol.01
「タイルがイタリアから飛んで来た」2017.1


Vol.02
「タイルの秘境ベトナム」2017.3
 


Vol.03
「コルビジェのカラーパレット」2017.4
 


Vol.04
「ジーンズを超えて」2017.5